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映画「レミングたち」の覚書 | #2 高田歩

映画「レミングたち」で肝となる、主人公 翔の妹である渚役を演じてくれたのは高田歩さん。本作が、初めての映画の出演でした。

声がする

昨夏の入院中、僕はうだるような暑さに見える外を、空調の整った部屋の窓から眺めながらベッドの上で漫然と過ごしていました。ふと、隣か、その隣くらいの部屋からとてもよく通る声が聞こえきました。病棟のある看護師さんが、患者さんとすごく楽しそうに話しているように聞こえました。最初は声の印象だけが強く頭に残っていました。

その看護師さんが僕の担当となったある日、血圧を測りながら何気なく僕が映像制作に携わっていることを話すと、彼女も実は俳優を目指しているということを教えてくれました。いつか一緒にレッドカーペットを歩けたらいいですね、なんて冗談混じりの話をして、だけど看護師ではなく俳優という目線で彼女を見た時、とても画面の中に映えそうな美しい人だなと感じました。

それから暫くして、「実は短編の映画を作るつもりなので、興味があればぜひ」とは声をかけこそすれ、現役の看護師で忙しいだろうから、実際に俳優としての彼女を見れるのはきっと随分先のことだろうと思っていました。

渚の配役はオーディションで募集しました。そこに、忙しいであろうに彼女も応募してきてくれました。映画出演は未経験ということで、オーディションで見た演技も技術的に上手いわけではありませんでした。他にも俳優としての経験も持った魅力ある人はいて、本当に悩みました。けれど、改めて俳優として彼女を見た時、日々を命の間近で過ごす彼女からは確かに力強さと切実さを感じました。とても強い眼をしているのです。だから、最終的には直感を信じて、彼女に出演をお願いすることにしました。

"直感で決める"、これがこの作品を作るうえで大事にしていたことのひとつでもあります。

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はじまり

高田さんは、たぶんあまり器用な人ではないと思います。だけど、とても真摯な人でした。脚本の読み合わせの時から相当に苦心している姿を覚えています。最初は僕も彼女も渚というキャラクターに対して、いまいちピンときていませんでした。しかしいろんな試行錯誤を経て、少しずつ、少しずつ像を組み上げていってくれました。

高田さん

現実的な問題として、看護師さんというのは非常に多忙で、本来なら4日間の撮影期間すら無理のあるスケジュールでした。けれど高田さんは年末年始に使える連休を、そのまま撮影に充ててくれました。撮影までの準備期間も、看護師として働きながら空いた時間はこの作品に費やしてくれました。撮影1週間前には毎日のように主演の森馬くんと2人、仕事を終えてから夜の公園で懸命に練習に励んでくれたそうです。

「レミングたち」の劇中で、ダンサーを目指す渚は事故に遭い、足が動かせなくなります。これから夢を追っていく高田さんに、夢への道が断たれるかもしれない状況を演じてもらうのは、もしかしたら酷なことだったかもしれません。

けれどいざ撮影となると、そこには確かに渚がいました。本当に素晴らしかった。あるシーンで、カメラ越しに渚を観ていて僕は無意識に涙を流していました。

撮影の後半に差し掛かる頃には彼女は自身の中に渚という別人格が出来上がっていて、撮影期間中も心のうちでよく対話していたと、撮影が終わってから聞きました。

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もう本当に、感謝してもしきれません。微力ながら、少しでも恩をお返しするために尽力していこうと思います。

この4月から、高田さんは俳優としての活動に専念していくそうです。この作品はほんの始まりに過ぎず、高田さんはきっとこれから数多くの素晴らしい作品を残していくと思います。

どうか、この素敵な俳優の行く末に注目してください。


次は、斎藤陸さんについてです。


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