見出し画像

シティー「降格」の危機⑪ーシティーが落とした「爆弾」、戦々恐々とするライバルクラブたち

プレミアリーグに大激震が走っている。


プレミアリーグに大激震が走っている。シティーが「爆弾」を落としたのである。それは、来週の緊急株主総会によって明らかになると思うが、何とこの総会は日時、場所を決めずに開かれることだけが決まった。通常ではありえない緊急性である。

しつこいようで、申し訳ないがプレミアリーグは所属20チームを株主とする株式会社である。

そのため、何らかの問題がプレミアリーグの法務委員会に係った場合でも、徹底的に非公開である。委員会が開かれていることすら公表しなくて良いし、訴えの内容も、審議の内容、評決の内容も明らかにしなくてよいのだ。全て社内の問題となる。会社の監査委員会と考えて頂ければ良い。

この非公開の制度がメディアを含めた外部者にも大激震を与えた。メディアもリークとして評決文を受け取り、報道をしている。そのため、プレミアリーグが各クラブに送った「評決文」とマンチェスター・シティーが「正しい」と主張する「評決文」の間に齟齬が生じているのである。

それは、Associated party transaction(APT )ルールが違法であるとの評決は両者とも認めているのであるが、それが「無効」であるかという点で食い違っている。そのため、緊急株主総会が開かれるのである。APT については、以下の記事を参照して頂きたい。

無利息の株主貸付

このあと、APT がどちらの方向に向かうか分からない。しかし、「パンドラの箱」が開いてしまったことは確かだ。その「パンドラの箱」に何が入っていたかというと、「無利息の株主貸付」というサッカー界の慣習である。

今のプレミアリーグで「お金を使ってくれないオーナー」という不満を聞くことは少なくなった。しかし、10数年前にはこのような不満をもらすサポーターが多くいた。有名なところでは、サウジにクラブを売却したニューカッスルのオーナー・マーク・アシュリー氏マンUのグレイザー家などなどである。

さて、オーナーがお金を使うとなると、法的にどのような手段があるだろうか。大きく分けて二つしかない。増資をするか。クラブに自ら貸し付けるかである。短期的なソリューションとしては、キャッシュを回すには貸付しかない。これが、株主貸付である。

そして、おそらく「オーナーの株主貸付は無利息でいい」というのが、長らくサッカー界の慣習であったように思える。私はイングランドの法律に通じていないので、イングランドの税法については分からない。

しかし、日本の税実務では、無利息の貸付金は多額な場合、会社への贈与とみなされ、多額の贈与税を支払わせられることがある。この点が長年プレミアリーグでは話題にはなっていないので、合法であったのだと推測する。

株主貸付は有利子で返済しなければならない

さて、以前の記事で述べた通り、この株主貸付がAPT ルールでいう「関連当事者取引」に該当するということ評決が下されたようだ。

このことが、なぜ大激震を呼んだかというと、APT ルールでは、「関連当事者取引」は「公正な価格」でなされなければならない。株主貸付に対する「公正な価格」は、金融市場に置ける利子率であろう。イングランドの商業利子率は、報道でしか確認していないが、5%~8%らしい。

このルールがいつからの消費貸借契約に適用されるか分からないが、このことは二つの意味合いを持つ。一つは、単純に返していけるかどうかである。貸付が贈与とみなされる場合にチェックされるのが、返済を行っているかどうかである。

二つ目は、どうやらプレミアリーグの財務規制ルールでは、借入金の利息は費用みなされるため、PERというプレミア版ファイナンシャル・フェアプレーに引っかかる可能性が出てくるのである。

つまり、1つ目は損失の増加の点、2つ目はキャッシュフローがかなり厳しいものになる点である(借入金の返済と利息という形でキャッシュが流出する。)以前にも述べたが、損益をコントロールする合法的な方法は多くある。

ただ、キャッシュフローはコントロールしがたい。ビッグクラブなら急にいい選手が取れるとなって、100億円必要になることもあるだろう。移籍金は分割することもできるが、移籍金の高い選手の年俸はもちろん高い。契約時点で多額のキャッシュが必要になるのだ。そこで、「打ち出の小槌」のように利用されるのが、「株主貸付」である。

各チームの株主借入の概算値(単位:百万ポンド)

出典 The Time 各チームの株主貸付の概算値

上記が各チームの株主借入の概算値である。上位で語るべきは、シティーのライバル、アーセナルであろう2億5800万ポンドである。さらに、3億2000万ポンド(620億円)に増える予定である。これで年利5%を計算すると1600万ポンド(31億円)である。31億円ずつ経費が増えることになる。さらに、大事なことは、借入金を返していかなければならなくなることだ。

それに対して、マンCの株主貸付は0ポンドである。マンチェスター・シティーとエティハド航空のスポンサー契約は8000万ポンドとされている。この金額とアーセナルの株主借入3億2千万ポンドを比較すると、法律委員会が、なぜマンチェスター・シティーの主張を認めたのが分かるであろう。実質的に株主貸付の方こそオーナーが損失補填しているのである。

そのために、オーナーの株主貸付を考慮していないAPTは違法とされたのである。

以上、株主貸付の問題を探ってみた。次回は、もう少し話を広げたいと思う。PERについては、記事を書いているので参照していただきたい。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集