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冨安健洋選手のケガの再発について思うところー欧州5大リーグの「ケガ人数」のレポート
冨安健洋選手のケガについて思うところ
冨安健洋選手の膝のケガが再発した。アーセナル・ファンとしては大変残念なことである。イングランドでは早々に放出の可能性がささやかれている。
私の考えではあるが、このような報道に不安になることはない。スポーツ・クラブは、冷徹で急にビジネスの顔を見せることはある。
そして、選手も分かっている。これは内田篤人氏が語っていたが、選手間では我々が考えるより、はるかに多くの会話が「お金」に関するものであるそうだ。
しかし、考えてみてほしい。クラブが、ケガをしたが故に選手を放出すれば、他の選手はどう考えるだろうか。当然ケガをしたくないと思うだろう。ケガをしたくないと考えたら、試合で100%の力を出せないだろう。まして、サッカーはケガの多いスポーツである。
このため、スポーツ・クラブは、選手に保険をかけている(契約書には必ず条項がある。)選手に保険をかけていると聞くと、違和感を覚えるかもしれないが、われわれも生命保険に入る。同じことである。
プレミアリーグの2022‐2023年のケガについてのデータ
プロ・サッカー界で、ケガが年々増えている。その記事がイギリスの新聞 The Timesに上がっていたので、要約しよう。まず、引用されているデータであるが、世界的な保険代理店ハウデン(Howden)が毎年公表しているものである。以下は、プレミアリーグに関してのものである。
まず、昨シーズンであるが、平均して約94分に1人がケガをした。すなわち、平均して1試合に1人がケガをしていることになる。その負傷の重症度は、4年連続で上昇し、平均25.6日、試合出場(ベンチ入り?練習?)ができなかった。そのため、2億6500万ポンド(約500億円)の基本給に対して補償が支払われた。
この2億6500万ポンドがどれぐらいの大きさかというと、マンチェスター・シティーの選手サラリーの総額が、2億1300万ポンド(1位)であるので、それを支払って、ペップ等のコーチのサラリーを払えるぐらいであろうか。つまり、マンCを1年間レンタルできるだけの額である。
これが多いか少ないかは、判断は難しいが、まだ保険の対象となっているということは、保険が効かない危険領域には達していないとも言える。
最も累計のケガ人が多かったクラブは、ニューカッスルの76人、続くのはマンUの75人であった。
ケガ人の増加率は、4%で統計が発表されて以来、最も低いいものであったが、これはカタールW杯(2022年冬)の影響を受けた、2021‐2022年から2022‐2023年(間にカタールW杯)の上昇率が大きかったことを考慮すれば、ケガ人は上昇しているだろう(増加率は2022‐2023年を元に計算するため。)
FIFAに対して選手と経営者が共同で異議申し立て
このため、この月曜日に国際選手組合の欧州支部であるFifproと欧州33リーグの代表者が共同で欧州委員会(EUの下部組織)に、FIFAの決定した2025年夏の32チームが参加するクラブワールドカップ、2026年の48チームが参加するW杯に異議を唱えた。労働者と経営者が共同でビジネスに関する意見をするのは異例である。
冨安選手に日本サッカー界は休みを与えるべきではなかったか?
冨安選手のキャリアを振り返ってみると、それまでのクラブで年30試合近く試合に出ていたのが、2021年‐2022年シーズンから20試合と少しに止まっている。
ここからは、私見であるが、冨安選手のケガが増えたのも、やはり2021年の東京五輪、2022年のカタールW杯の影響を受けたものであると考えざるを得ない。
私は、当時からW杯等と関係のない親善試合に冨安選手を呼ばなくてもいいのでは、と考えていた。ほぼ3年間(2020‐2021, 2021‐2022, 2022‐2023)、長いオフシーズンがないことが分かっているならば、長期的に見て冨安選手の「疲労」をマネージメントをしなければならなかったであろう。
現在にその反動が出ているならば、これは、日本サッカー界の大失態である。おそらく20年に渡り活躍するであろう、日本史上最高のセンターバックをケガの連鎖に放り込んでしまったことは、日本サッカー界は深く反省しなければならないことであろう。
リーグ別、ケガの種類別、ポジション別ケガ数のグラフ
以下、記事にのっていたグラフを転載する。私は、現場を知らないので分析できないが、5大リーグでこれほど大きな差があるのには、驚いた。
そして、ブンデスリーガのケガの数の多さは分析に値するであろう。ご存知のとおり、ブンデスリーガの18チームのリーグ戦で全34試合で、ウィンターブレークもある。いつか調べてみたい問題である。
2番目のグラフは、ケガの種類と欠場期間である。ケガの種類は試合を観ていての実感とあまり変わらないと思う。欠場期間はやはり膝のケガが最も長い。
あと、気になるのは「脳震盪(knock)」である。「ハムストリング」とほぼ同数である。しかし、これは私の実感ではあるが、選手が頭を打って「脳震盪」で退場するより、「ハムストリング」で退場することの方が多い気がする。
このデータは、実際に保険会社が認めたものをベースに作成されているので、クラブが過少請求することは考えにくい。と考えると、ドクターが「脳震盪」のままプレーさせているとも疑いたくなる。
ラグビーの試合をご覧になる方は分かると思うが、ラグビーの試合で「脳震盪」のチェックは1試合で2,3選手に及ぶ場合もある。そして、3分の1ぐらいの割合で、そのまま交代となることがある。
最後は、ポジション別のケガであるが、ゴールキーパーを除き、私は逆の順番でケガの数が多いと思っていたが、DFはFWの1.5倍ケガが多い。
これは、我々の認知的ハレーション効果であろうか(FWの喪失感の方が大きい。)または、ポジション登録の問題かもしれない(例えば、右サイドハーフ(MF)と登録するか、右ウィング(FW)と登録するか。)
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蛇足:ハムストリングのケガについて
蛇足だが、上記のグラフで最も多いのがハムストリングのケガである。友人の整形外科医に聞いたところ、日本では「肉離れ」という訳がわからない言葉を使っているが、本当はふとももの「筋繊維の断裂」であるそうだ。
そして、我々一般人が運動できなくなる筋繊維の断裂を仮に100本だとしたら、アスリートは10本以下の断裂でパフォーマンスができなくなるようだ。私などは、一見、歩いてピッチを出ているので「次の試合は大丈夫かな」と思うが、選手は、すぐにダメだと分かるらしい。
そして、外科的にも治す方法はないらしい。最大でできることは、太ももの筋肉が伸びない、つま先立ちの形で足首を固定し、筋肉自身の治癒を待つとのことである。
データについては下記記事を要約した。