シティー「降格」の危機⑨ープレミアリーグがシティーを追放し、嫌疑がかかる全てのシーズンの勝点を剥奪したらどうなるか。シミュレーションする。
シティー関連の記事を探していると、いくつか面白い記事に出会った。それは、プレミアリーグ(以下、EPL)が課す制裁の重さによってシティーとプレミアリーグがどのような状況に置かれるかというものであった。
もし、EPLの主張が正しいとして、最大限の制裁を与えるとしたら、プレミアリーグからの追放と嫌疑が係っている2009年から2018年までの勝点の剥奪であろう。
このような制裁は、スポーツ界でいくつかある。思い当たるとしたら、例えば、サイクルロードレース界のランス・アームストロングの追放・記録の削除や、古くはオリンピックにおけるベン・ジョンソンのドーピングによる追放と世界記録の削除、そして、近年ではドーピングによるロシア人選手の追放・メダルの剥奪が思い当たるであろう。
ここまでのことをEPLができると思わないが、やったとしよう。そこに何が残るであろうか。シティーは完全なる亡霊となり、UAEはシティーから手を引くかもしれない。そもそもオーナーからの損失補填がなければ、回らないチームである。誰が火中の栗を拾うであろうか。
これは、シティー・フットボール・ジャパン(株)の利重孝夫代表(2017年当時)へのインタビューを読んでいると分かったのだが、まずシティーの筆頭株主である「ADUG」は完全なる投資会社で、シティー以外に、それこそあらゆるものに投資を行っている。
そして、シティーへの投資目的は、対西欧諸国への「アブダビ首長国、UAEの喧伝」で、サッカーという困難なスポーツビジネスにおいて、自分達のやり方で成功させるのだ、という自信と力の誇示であるという(今回、問題となっているのがこの「自分達のやり方」であるが。)
私は、何も文明の衝突という話をしたいわけではない。ただ、上記の理由を考慮すると、UAEにとって「マンチェスター・シティー」の対西欧社会への「アブダビ首長国、UAEの喧伝」のプロモーションの価値は暴落するであろう。
今度は、プレミアリーグについて考えてみよう。意外と失うものが少ないように思える。確かに、シティーがいなくなるのでビッグマッチが減り、放映権料が落ちるかもしれない。
しかし、アメリカでEPLの放映権を持つ「NBC」のエグゼクティブのインタビューを読むと、それは一時的なことで視聴者は減らないだろうと予測している。むしろ、適正な制裁を課すことで、EPLの価値は上がると考えているようだ。逆に中途半端はやめてほしい、と言ってもいる(NBCは他のリーグの放映権も持つがダントツでEPLの放映権料が高い。)
ただし、EPLが所属クラブ側から損害賠償請求にあうかもしれないという記事もあった。当り前だが、シティーの勝点を剥奪した場合、シティーへの賞金は他のクラブへまわるはずのものである。
また、チャンピオンズリーグに出ると多額の分配金に与かれることも知られている。
そして、一番の問題はシティーの記録を削除すると、降格した1チームはEPLに残れたはずである。どのリーグでも当然だが、1部と2部では分配金に大きな差がある。このような損害賠償のリスクをプレミアリーグとシティーは負っている。
ただし、その立証は困難であろうというのが、法曹関係者の意見である。つまり、因果関係が証明できないのである。サッカー観戦者は良く分かると思うが、お金をかけたとしてもチームは必ずしも強くなるわけでもないし(ファンには申し訳ないがマンU)、お金をかけずに強いチームはいくらでもある(Jリーグ1位の広島と2位の神戸の年俸総額を比べてみよう。)
以上が、現在、私が持ちうる情報での最大級の制裁、「追放・勝点剥奪」の分析である。次回は、そこそこの罰則、「1部か2部」への降格を検討してみたい。