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Drの僕が転職して良かったと思うこと(パート④)

1.時間に余裕ができた

2.収入が増えた

3.単純に仕事内容が楽しい

4.学会に入る必要がない

5.職場環境が良い

6.車で移動が多くて逆に良い

7.リスクを冒す場面が少ない

8.win-winを感じれる

9.自身の人生観も深まる


今回は7つ目について書きます。

7.リスクを冒す場面が少ない

 医師が最も緊張する場面は患者が”死ぬかもしれない”という場面に直面いした時です。僕が、ここで言う「緊張感」というのは医師にとっては悪い意味のものです。その緊張感は、患者様やその家族、一緒にサポートする看護師や介護士、ケアマネージャーなどのその場を構成する方々だけでなく自宅なのか施設なのかといった場所にも影響を受けます。患者様を取り巻くすべての環境が雰囲気となって言葉に表せないような状況を作り出します。

 なぜ患者の死期に医師が緊張するかというと、やはり患者自身がその死を受け入れることができているのだろうか、家族が納得できているだろうか、自分以外の医師、看護師など医療側にもっとできることはなかったのだろうかとか、自分の判断は間違っていなかっただろうかと不安になるからだと思います。ましてや、遺族から苦情を言われないだろうか、訴えられたりしないだろうか、などという恐ろしいことが頭をよぎったりします。

 医師には説明責任があり、患者にとって適切であろう治療や処置、そのメリットとデメリットなどこと細かく説明し明確により簡単な言葉でわかりやすく説明する必要があります。

 普段からちゃんとできている医師の方が勿論多いですが、この説明責任が100%果たせているかどうかは疑問です。医師も人間ですから、その時の状況によっては100%の面談ができないことだってあります。

 医師が100%患者にコミットできない原因の一つとして『時間がない』ことが挙げられます。

 特に病院で多いのが主治医が患者の急変時に居合わせていないことが原因で患者や家族から不信感を抱かれてしまうケースです。
 この点に関して前もっと断っておくと、この急変時に医師が居合わせていなかったことに関して、医師は決して怠けているわけでも不誠実なわけでもありません。病院というのは、その患者様以外にも何人もの患者様がいるし、ほかの緊急処置や手術などにその医師がオペレーターとしていることも多々あります。また急変を起こす時間が夜間や休日であると尚更主治医による対応は難しくなります。もちろん、個々の医師や診療科、病院単位でその問題に直面した場合の対応策を用意しているとは思いますが、患者やその家族からすれば「主治医はどこにいるんだ、主治医は何と言っているんだ」と言いたくなる気持ちはよーく分かります。

 この問題を解決する一番の方法が『時間』であると言いたいのです。

いつかの黄色いハイビスカス

 医師にとって在宅診療は、患者にとっての最期の時間をより理想的に過ごしてもらうための意思確認・決定を最良の環境で行うことを可能にします。

 病院は患者や家族にとってアウェーになりがちです(病院側は全く意図してませんが)。病状が良くないことを説明すると、患者や家族は病院側を敵とみなすことがあります。これは病院側、家族側のどちらも悪くありません。何が悪いかというと自然と患者が追い込まれてしまう環境に問題があると思います。

 それを解決に導く方法として、少しでも患者がホームに感じる場所、すなわち在宅に環境を移すことが理にかなっています。

 死(とりわけ終末期)に直面している患者様は現在の医学では治癒しないと判断されたわけです。それでも生きていたいと思うのが人間であり、その命が尽きる最後の瞬間まで自分でいようとする姿が素晴らしいと僕は思います。その時点で患者は、”自分らしさ”を追求することに時間を費やすわけで、そこで医療に求められることは患者が自分らしく最期の時間を過ごすためのサポートです。

 もっと分かりやすく言うと、病院では病気をやっつけようとするために通院もしくは入院しているのでそのゴールは治癒となります。しかし現在の医療で治癒困難と言われている病気と闘うとなると苦痛を伴います。苦痛はストレスとなりストレスのはけ口は医師や病院となってしまうことがあり、険悪なムードが漂ってきてしまうというわけです。

 僕はそのような環境が大っ嫌いでした。医療の本来のあるべき姿ではないと思いました。

 最良の医療とはスーパードクターや最先端の治療がでいる病院で行われるわけではありません。なぜなら患者が主体となって自分の理想の治療をうけることが最良の医療であると考えるからです。

 治癒困難と言われた患者様にとっての最適な医療において、スーパードクターや最新医療機器は必要ないのです。
 
 必要なのは患者が一番と思える環境です。そこに必須な要素となるのが自宅での治療ということです。患者にわがままになれと言っているのではありません。誰にでも死は訪れるものです。死なない人間なんていないし、この世に生きている人すべてが死ぬ経験なんてしていないので死期が迫っていて怖くない人なんていないのは当たり前のことです。その”怖さ”をできるだけ小さくしてあげることが必要であり、そういう助け合いができるのが人間だと思います。

 今回は、在宅診療はリスクを冒す場面が少ないというテーマで書いてみましたが思わぬ方向に進んでしまいました(笑)。

いつかの綺麗な夕焼け

 まとめると、医師が抱えるリスクとは、患者にとっての敵が病気ではなく医療側になってしまうことであり、そうなってしまう最大の原因は時間がないことであり、病院という環境では時間が取れないことが多い。その点、在宅診療は終末期という限られた時間を患者様が自分らしく居られるための環境を整える時間を設けることが可能となり、患者様が死の恐怖を克服するための医療側のサポートも最大限に発揮することができます。

 病院勤めの時も患者様や家族からありがとうと感謝されることは多かったですが、在宅診療で得られるありがとうの気持ちがあふれた環境は病院ではなかなかあり得ません。

 患者が満足できる医療ができたと思えること医療従事者としては最大の喜びであり、そう思える医療に辿り着いたということは僕の医師人生において最大かつ最良の転職だったと言えます。

 まさにwin-winを感じた瞬間だったというわけです。

 あれっ!? 
 8つ目もちゃっかり加えちゃった(笑)

 というわけで以上が今回の記事となります。
 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
 次回もよろしくお願いします。

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