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私のたい焼き履歴書

最初にたい焼きと知り合ったのは、駅の中にあるホットスナックのお店だった。チーズドックともそこで初めて知り合った。他にも焼きそばとかたこ焼きとかアメリカンドックが売っていて、しかも駅に入るエスカレーターに乗るには目の前を通らないといけない仕様になっていた。その中で一番安かったたい焼き。たしか60円くらいだったと思う。真ん中に絞り出したアンコが入っていて、尻尾どころか腹も背中も生地だらけだった。それでもお腹は膨れるし、なにより通りかかったら最後食べたい衝動に駆られるのだ。ただ小学生だった私に買う術はなく、親と通る際にいかにアピールして買ってもらうかが勝負だった。チーズドックかアメリカンドックで悩んでも、結局いつもたい焼きだった。

中学生のとき、通学路にたい焼き屋ができた。駅のホットスナック屋と違い、たい焼き専門店だ。ここのたい焼きは80円だったけど、背と腹にアンコが詰まっていたし色んな味があった。クリーム味のたい焼きとはここで知り合った。ただ中学生になって多少のお小遣いがあるとはいえ、今度は先生の目が気になる。登下校中は買い食い禁止だったが、たい焼き屋があるのはちょうど中学の裏手から500mくらい行ったところだった。そこから更に500m先のコンビニには、時々先生が見回りに来ている。たい焼きを買うのは命がけだった。先生を撒ける自信がない時は駅のたい焼きで我慢した。ちなみに高校も地元だったので、たい焼き専門店は6年間に渡って通学路のホットスポットとして君臨し続けた。

高卒でフリーターとなった私は、デパ地下の惣菜売り場で働き始めたのだが、ここでついに運命のたい焼き屋と出会う。

「くりこ庵」である。

たまたま差し入れでいただいたそのたい焼きを食べて、私は衝撃を受けた。そう、背や腹どころか尻尾まで餡がぎっしりなのだ。ホットスナック屋のたい焼き、あれはなんだったのか。これこそ真のたい焼きじゃないか。はやる心を抑えて、仕事終わりに店舗を訪ねた。

えっ、高!ホットスナック屋の倍はするじゃん!モノによっては200円超えるものもある。でもこの頃の私は「価値のあるものには相応の対価が必要」という真理に触れかけていたので、ぎっしり餡のたい焼きに嬉々としてお金を払う日々が続いた。くりこ庵はシーズン限定餡が豊富なので、それも楽しかった。

その後別の店舗に異動した際、隣にあった「たい夢」というお店もなかなか美味しかった。ここはクリームが絶品で、「うふクリーム」というのだけど、思わず「ウフフ」となる味わいだ。たい焼きは基本アンコ派だが、たい夢に限ってはクリームを推したい。


こう振り返ると私の人生たい焼きに縁があるなぁと思わずにいられないのだけど、急にこんなnoteを書いたのは、また一つ新しいたい焼きに出会ってしまったからなのだ。

六本木にある「OYOGE」というお店。たまたまTwitterで見かけて、そのコンセプトに私は唸ってしまった。

https://twitter.com/OYOGE_JP?s=21

「冷めたたい焼きは美味しくない、それなら冷めても美味しいたい焼きを作りたい」

「令和の時代のたい焼きならば、鯛の姿じゃなくてもいいじゃん」

ほー!へー!

たしかに冷めたたい焼きはボソボソして美味しくない。それはあのホットスナック屋のものも、くりこ庵のものも同じだ。マズい、とは言わないけど「あったかい方が、焼きたての方がおいしい」というのがたい焼きの信条だ。それを「冷めてもおいしい」とはいったいどんなたい焼き、いやウオ焼きなのか。

では食べに行こうじゃないか!と思った頃、運悪く緊急事態宣言が出てしまい、通院のための六本木通いがなくなってしまった。まさかたい焼き買いたいから六本木に…とはね、言えない。そうして7月下旬、ようやく通院再開が叶い、ついに念願のたい焼きを買うチャンスがやってきた!

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お土産3種セットを購入。その場で食べるか悩んだけど、冷めてもおいしいがチラついて帰宅後まで我慢した。帰宅して早速、開封。すっかり冷めていた、いいぞいいぞ。しかし手に取るとやけにあぶらっぽいのが気になった。たい焼きとの邂逅に、このべたつきは想定してなかった。出来立てを食べ歩くときどうするんだろう、とか、結構くどいのかな、とか思いながら一口。

あ、うっま。うっまいわ。

いわゆるたい焼きのように、生地と餡がほどける感じがない。フォンダンショコラみたく、生地と中身が混ざり合って口の中に入ってくる。まさにスイーツを食べている感覚だった。洋菓子にヒントを得て開発しているそうでとても納得。たしかにフィナンシェとか、クッキーとか、焼き立ても格別だけど冷めてバターが馴染んだあたりもおいしいよね。重いとかくどいとか感じる前にぺろりと1匹平らげてしまった。カロリーの危機を感じたので、残り2匹は翌朝のご飯にすることに。(ほんとは当日中に、と書いてあったけど!)

でもなんか、たい焼き欲求は満たされなかった。新しいスイーツを食べた、という感じ。

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とはいえ美味しかったのでリベンジ。今度は店頭であったかいのを一匹。

「イワシ一匹ください!」って言うのがなんか、いい。六本木の裏通りで、イワシ一匹!iDで!なんてちょっと令和じゃない?

一口食べて、アレッ?となった。アレッ、私の知ってるイワシじゃない。こないだ食べた、しっとりお上品なスイーツの味がしない。サクサク生地に軽やかなあんことクリームチーズの酸味が混ざり合って、ポップな味わいになった。

これだ、これ。私がたい焼きに求めてる「おやつ感」。冷めたときにしっとりまとわりついたバターも、全然感じなかった。ミッドタウンの通りを、イワシをかじりながら歩く。小ぶりなので食べやすい。こぼれそうなあんこに気をつけながら食べるたい焼きも好きだけど、お腹の空き具合に気を配らないといけないので、最近ご無沙汰になっていた。今の私がOYOGEのたい焼きに出会えたのは必然のような気がしてきた。

おかわりしに戻りたい衝動は、カロリーを考えて思いとどまった。次の楽しみにしよう。小魚をかじりながら、六本木の街を歩こう。

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