【Voicy】#いつか旅に出る日 内戦が始まる前のシリアへ、1996年。(2021.8.23放送)
こんにちは、吉塚康一です。私は会社経営の傍ら近代史を研究し、「百年ニュース、毎日が100周年」という放送をお送りしています。今日はVoicy編集部が募集していた「いつか旅に出る日」というお題で放送を収録してみます。タイトルは「内戦が始まる前のシリアへ(1996年)」です。いつもの放送とは違いまして、印象に残っている旅について話をしてみたいと思います。
私は、コロナ禍が始まる2020年の前は、仕事柄海外へはほぼ月に1回のペースで出ておりました。前職の三井物産の時代もそうでしたし、独立しまして株式会社キュリエを経営するようになってからもそうでした。またカナダのトロントに留学したり、あるいは中国の北京・南京・上海に駐在したり、海外生活には縁の深い人生をおくっていると自分では思っています。またそれが性に合っています。海外旅行も学生時代からたいへん頻繁に行っておりました。いろいろと印象に残っている旅があります。
私は1996年4月に新卒で三井物産に入社したのですが、その直前の卒業旅行。これが3か月かけて、バックパッカーとして中東を旅行してきました。トルコのイスタンブールに入りまして、キプロスにちょっと寄って、陸路でトルコからシリアに入りまして、さらにヨルダン、イスラエル、エジプトと貧乏旅行をやりまして帰ってきました。1996年ですので古い話です。それぞれ非常に面白くて、エピソードにも事欠かないわけですが、今から振り返ると、やはりシリアをゆっくり旅行できたのは非常に得難い体験だったなと思っています。現在はとてもシリアを旅行することはできません。10年以上にわたるシリア内戦で、国連の推計では46万人もの死者を出し、700万人の難民を出しているわけです。人口が1,800万人の国ですので、その犠牲の大きさがわかると思います。
ところが私がシリアを放浪していた1996年は非常に治安の良い国でした。貧しくはありますが、文明の誇り高さ、悠久の歴史を感じる、素晴らしい旅行でした。トルコとシリアの国境にありますアンティオキア、今はアンタキヤと呼ばれていますが、こちらから陸路、バスでシリアに入ります。国境を越えてアレッポに行くバスが、結構頻繁に出ています。アレッポは、アラブ語では「ハラブ」と言うんですね。バスの呼び込みのおじさんたちが「ハラブ」「ハラブ」と大声で叫んでお客さんを呼ぶと。このアレッポはダマスカスと並ぶシリア最大の都市ですが、本当に素晴らしい城壁と旧市街を持っておりまして、古代都市そのまま、という感じでした。これがアラブ内戦で破壊されてしまったのをみて、本当にやるせない想いでした。
そこからハマ、ホムス、クラック・デ・シュバリエ、パルミラ、ダマスカス、ボスラ、今でも鮮明に覚えています。ハマという町の露店でゆで卵を買いまして食べたんですが、これがあまり新鮮ではなかったようで、食あたりになってしまいました。移動した先のパルミラで具合が悪くなり、3日間入院していました。シリアはかなり英語が通じます。病院では英語に堪能な若いお医者さんが、大部屋のベッドではなくて、自分の控室を個室にして、私の病室に充ててくれました。たいへん助かりました。点滴を打っていくうちに徐々に回復していきました。海外の貧乏旅行ではどの街にもバックパッカーが大勢泊まるドミトリーがあります。そこで知り合った日本人が病院まで差し入れをしてくれました。長期の海外旅行をしていると、スマホのない時代ですので、移動時間や待ち時間を潰してくれる日本語の文庫本がたいへん貴重なのですが、何冊も差し入れてもらって大変感激を致しました。
1年半前からTwitterで「百年ニュース」「毎日が100周年」という投稿をするようになったのですが、昨年の9月にTwitterを通じてすごい再会がありました。パルミラの病院で島田荘司(しまだそうじ)のミステリーの文庫本を差し入れてくれた方がいらっしゃったんですが、この方から「卒業旅行でシリアにいって、おなか壊しませんでしたか?」と話しかけられまして、「はい!それ私です!」というような感じで返事を致しまして、ツイッターで再会ということなりました。あらためてSNSってすごいなと、そのパワーを感じたところです。
さてコロナが収まりません。私はすでに8月2日に2度目のワクチンを打っているのですが、デルタ株のブレークスルー感染の報道などに接し、やはり気が抜けないなと思っているところです。1日でも早く収束してくれと願わずにはいられません。自分自身の人生を振り返ってみると、卒業旅行の中東3か月もそうですが、海外への渡航、具体的には海外出張・海外旅行・海外留学、こういったものが私という人間を形作っている、結構コアな部分にあるなと。海外に出ることで、自分の競争力が高まり、人生が豊かになり、仕事も家庭も充実しているんだなと感じています。ですのでコロナ禍で海外へ行けなくなって以来、どうも落ち着かず、人生のペースが乱れていると感じます。いつか旅に出る日。はやくその日が訪れて欲しいと願っています。
中東のほうでよく使われるアラブのことわざがあります。英語で言いますと、Who lives sees much. Who travels sees more. つまり、長生きするものは多くを知る。旅をしたものはそれ以上を知る。やはり旅を通じて様々なことを知り、また知的好奇心を掻き立て、よい人生を送りたいものだと思います。
ということで本日は「いつか旅に出る日」「内戦が始まる前のシリアへ(1996年)」というタイトルでお話をさせて頂きました。よろしければぜひフォローをお願い致します。ご機嫌よう。
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