「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」 野口悠紀雄 著 幻冬舎新書
10年以上前、政府の幹部2人が、2%の物価上昇を目標にすると言ってにこやかに微笑んでいる画像を見て、僕は強い違和感を持ちました。物価の上昇は結果的に起こるもので、目標とすべきものではないと考えたからです。
本来であれば、生産性が上がり、企業業績が好転し、賃金が上昇し、物価が上がると言うのが順とうな流れです。それであれば、景気が良くなったと言えます。
しかし、物価は上がっていますが、実質賃金は下がっています。著者によれば、「株価が上がっているのは、日本が豊かになっていることを意味するのではない。所得分配が不平等になっていることを意味するのだ。(p.78)」ということです。実際、非正規雇用者のが全労働者の40%程度になり、給与格差がこれまでになく広がっています。
企業利益は上がっているではないかと言う人がいるかもしれません。でも、「円安になると、日本円に換算した売上額は増加する。原材料価格の上昇分は販売価格に転嫁されるため、企業の利益が増加する。(p.111)」ということで、日本が豊かになったわけではないのです。
今、日経平均は上がっています。でもそれは、35年前の1989年の水準にやっと戻ったに過ぎません(p.81)。
それに、日経平均は、ドル建てでは対して上がっていません。それは当たり前のことです。なんといっても円安ですから。下図は、僕が趣味で作っているグラフです。
日本は、この30年、経済が成長していないのです。
この失敗の理由は、アメリカと比較すると明確です。
著者が言うように、
「アメリカはIT革命によって製造業中心の経済構造から高度サービス産業を中心にする経済構造への転換に成功し、新しい経済発展のパターンを実現していった。 それに対して日本は、古い産業構造を残す選択をしたのだ。(p.134)」
「アメリカは他国からの移民を受け入れ、有能な人々が活躍する機会を与えてきた。それらの人々が新しい技術を開発し、新しい経済活動を興してきた。(p.181)」
一方日本は、「外国人が日本に来て、日本の技術の発展に大きく貢献したという例を、私は聞いたことがない。(p.175)」
「問題は、外国人や外国生まれを排除するという、日本人の仲間意識と閉鎖性だ。(p.175)」
という状況が、失敗の元凶だと僕も思います。
僕は、今の日本の状況にかなりの危機感を持っています。
でも、同時に期待も持っています。野茂英雄さんや、イチローさんや、大谷翔平さんや、三苫薫さんや、北口榛花さんのように海外に打って出た人たちの活躍です。スポーツの分野だけではありません。日本の独自の文化や技術も健闘しています。村上春樹さんや川上未映子さんなどの作家も海外でとても評価されています。アニメやゲーム、寿司などの和食、シャインマスカットなどのフルーツ。日本酒の海外での売り上げも伸びています。・・・これらに共通しているのは、偉い方々の余計な介入がなく、自分の頭で考え独自の動力をしてきた人たちや業種が海外で成功を収めているのです。
若い人たちが自分の頭で考え自由に羽ばたけるような環境を整えていけば、きっと日本は良くなると思います。