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「思考の穴」 アン・ウーキョン 著 ダイアモンド社
この本はエール大学の心理学の人気講義「シンキング」をベースとした本です。
人間の思考は、穴だらけ。悲しいほど、穴だらけです。
例えば、人は統計に騙されやすい。
コロナが日本に蔓延し始めた頃、一部で「PCR全数検査すべき」という主張が盛んになされました。
しかし、いろいろ調べてみると、全数検査をすると、不都合なことが起こるのです。
前提を以下のようにしましょう。
全体で110人の人がいたとします。
100人がコロナに感染せず、10人が感染したとします。
そして、
コロナに感染している人が陽性と診断される確率=90%
コロナに感染している人が陰性と診断される確率=10%
コロナに感染していない人が陽性と診断される確率=10%
コロナに感染していない人が陰性と診断される確率=90%
としましょう。
コロナに感染している人は10人です。
コロナに感染している人のうち陽性と診断された人は、10X90%=9人
コロナに感染していないのに陽性と診断された人は、100X10%=10人
したがって、陽性と診断された人は、9+10=19人となってしまいます。
つまり、全員PCR検査をしてしまうと本来の感染者の2倍程度の陽性者が出てしまうのです。
このことに気づいたので、僕はフェイスブックに投稿しました。「偽陽性がたくさん出てきてしまうので、全数ではなく、『怪しい人(発熱している人、感染者と密室で接触した人など)』だけ検査するほうが合理的なのではないか?」と・・・。
その結果、大変な批判を受けました。人格攻撃的なことも受けました。やれやれ・・・。
別に、僕の考えが絶対正しいと主張したわけじゃないんですけどね。
また、こんなこと書いちゃって、批判されちゃうかなぁ。批判されても、すみません、これ以上の説明はできませんので・・・。
著者は、「解釈にバイアスがかかることは絶対に止められない(p.249)」と言います。
この本では、数々の興味深い考えが、具体的な研究結果を示しながら説明されています。
例えば、
「実は、むしろ賢い人のほうがバイアスのかかった解釈にとらわれやすいのだ。というのは、彼らは自分の意見に矛盾する事実をごまかす術をたくさん心得ているからだ。(p.228)」
「他者を思いやれる寛容な人ほど、相手の思いを推し量りたい誘惑に抗うのは難しいかもしれない。だが、他者の心を読もうとすることが大きなストレスになりうることを示す研究が次々と発表されている。(p.292)」
などは、ふむ・・と唸ってしまいました。
この本の最後の方で、著者ががむしゃらに勉強して博士号を取得後フランスを旅行した時の経験とそこで気づいたことが書かれています。
今のアメリカは、
「思春期や青年期の若者のあいだで不安が蔓延している(p.323)」
「この傾向は一時的な広がりではなく、不安を抱える若者の数は増え続けている。 18〜25歳で不安を感じている人の割合は、2008年では8パーセントだったが、2018年には15パーセントに増えた(つまり、コロナのパンデミックが起こる前からすでに増えていた)。(p.323)」
「楽しいことから取り残されるのではないかと不安になるのではない。「終わりのない成果競争で生き残るために欠かせない何かを、自分はやり損ねているのではないか」と不安になっているのだ。(p.323)」
という、成果を出さなきゃ、成長しなきゃという強迫観念に踊らされている若者の姿が見えます。アメリカでこれだと言うのは驚きです。
日本や韓国や中国では、この強迫観念については、もっと先を行っているかもしれません。
著者は、韓国からアメリカに留学して心理学者になった女性です。博士号を取得後、彼女が初めて訪れたパリで感じたことが、
「そして絵を見てまわっているうちに、「働くために生きている」というような私たちの姿勢は、きっと未来の世代で笑いものになるのではないかと思い至った。(p.325)」
現代人は、「成長すべき」という教義に洗脳されているのかもしれません。そして、教義は「正さ」を主張します。
ん〜、窮屈だぁ!
じゃあ、どうすればいいかというと、「自分の考えは間違っている可能性がある」という視点を常に持つことでしょうね。そして、河合隼雄さんが語っていたように「人の心はわからない」というスタンスでいることでしょう。
そして、著者が実践している「私は日々、「結果に飛びつかず、過程を楽しめ」と自分に言い聞かせている。(p.330)」を、僕は真似ようかと思います。
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