「悪魔を出し抜け」 ナポレオン・ヒル 著 きこ書房
自己啓発系の本はほとんど読んだことがありません。元祖自己啓発とも言えるナポレオン・ヒルのこの本を読んだのは、単行本で30,000円!もするのに、アマゾンキャンペーン期間にunlimitedで読めたからということもあります。ちょいと、この世界を覗いてみようと思ったのです。
この本に書かれていることは、成功するためには、「流されるな」、「自分の頭で考えろ」と言うことです。
不安や恐怖などで、自分の頭で考えることをやめると、ヒプノティック・リズムに飲み込まれ、成功の道から遠のいていくことになるということです。
ヒルの言うヒプノティック・リズムとは、繰り返し潜在意識を誘導して、人々を同じ思考・感情を生むように誘導するエネルギーと言えるかと思います。それがネガティブに働いた場合、今で言う、自動思考とかスキーマを作り出すエネルギーとなるのでしょう。
目標をしっかりと定め、自分の頭で考えると外からのヒプノティック・リズムに飲まれることなく、逆に自分でヒプノティック・リズムを作り出し利用し、「引き寄せの法則」によって、成功への道が開かれるということかと思います。
要は、著者は「思考は実現する」と考えているのです。そのためには、「もう一人の自分」とコンタクトし、その指示に従うことが成功の鍵であると主張しています。「もう一人の自分」とは、自分の内面から湧き出てくる言葉と考えていいでしょう。その「もう一人の自分」の言葉に耳を傾けると言うことが、「流されず、自分の頭で考える」ということになると、僕は理解しました。そして、人を成功から遠ざけるのが、不安や恐怖などにより「自分には無理だ」という考えてしまうことなどです。
ふむふむなるほどねとは思いましたが、この本を100%信じて行動したら痛い目に遭うだろうと思いました。面白い考え方もありますので、部分的には応用していけばいいのではないかと思います。
「自分には無理だ」は、前に進むのに過度なブレーキをかける考え方なので、それは横に置いて考えたらいいということについては、全く同感です。しかし、「思考は実現する」と言い切ってしまうことには、疑問を感じます。そうではなくて、「自己一致した思いは、それを実現する準備ができている」とでも言ったほうが良いかと、僕は思います。
この本の中では、悪魔の言葉として、「運などというものは万が一にも存在しない。人間が自分たちの理解できない状況を運と呼んでいるだけだ(p.213)」と書かれていますが、僕は、その考えに同意しません。どんなに準備しても冷静でも、思考が自己一致したものであっても、それが実現しないことはあり得ると考えます。だって、どんなに真面目に準備してても一瞬の地震で全てを失うことってあるでしょ?それって、その人の中に原因があるなんて言えますか?未来を完全に予測することはできません。だから、僕は「運」も「不運」もあると思っています。
「引き寄せの法則」のようなことが起こったとしたら、その中には、何らかの「運」の要素が存在しているのでしょう。
僕は、吉福伸逸さんという僕が最も尊敬するセラピストと仕事をした経験があるのですが、それは若い頃には想像すらできないことでした。確かに会社をやめ留学して臨床心理学を学んだという準備はしてきましたが、それでも、その準備の結果吉福さんを引き寄せたなんてことはとても言えません。僕は、単に「運が良かった」と思っています。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という野村克也さんの言葉が好きです。
大事なのは、「運」が向いてきた時にそれをしっかりと掴む感覚と行動力だと思っています。そこが、ナポレオン・ヒルさんと僕の考えの最も大きな違いのようです。
しかし、この本が書かれたのが100年近く前だったことを考えると、ナポオレオン・ヒルは、先見の明があるなと思いました。
ヒルさんは、賢いから、色々トリッキーなメッセージをこめていると思います。
「流されるな。自分の頭で考えろ」は、「私をカリスマにして100%信じるようじゃだめよ」というメッセージであり、「悪魔を出しぬき成功する方法」と言いながら、「せいぜい2%ぐらいしか成功しないよ」というメッセージも見え隠れしてます。「ヒプノティック・リズムに流されるな、自分がヒプノティック・リズムを使え」は、「洗脳される側じゃなくて、洗脳する側になりなさい。つまり流される側を利用しなさい。そうすりゃ成功するよ。成功者は、実は『流される人』がたくさんいなきゃ、困るのよ」・・・という、資本主義の中で成功するということにおけるシニカルな側面も示しているのかもしれません。
単純な「成功するための方法」の本ではないと思いました。