見出し画像

「歴史は予言する」 片山杜秀 著 新潮新書

週刊新潮の看板コラム『夏裘冬扇』が書籍化されたもの。読み応えがありました。

著者は実に幅広い知識を持っています。本書も天皇制から宰相と政治、疫病、戦争、作家、芸能人と、ローラーコースターのように話が展開し、しかしそこには、過去と現在の類似、あるいは、過去が示唆する未来が示唆されています。

むむっと唸ったのは、「〝坂の上の雲〟から〝坂の下の霧〟へ」と言うエッセイです。著者は、安倍晋三政権が長く続いた理由として、「この国が下り坂に入っているのに、国民多数がその事実を認めたくなかった(p.55)」と言う国民心情をあげていますが、とても納得しました。そして、「今後のこの国は、上り坂の先の輝く雲よりも、下り坂の先の暗い霧を見すえながら、下るにしてもなるたけ緩く平坦で少しでも明るい道を見つけなくてはなるまい。そのためには良いことばかりを言わない政治家が大事なのです(p.56)」という著者の意見に賛同します。空虚な言葉はもう結構。実のある言葉を話す政治家が出てきてほしいと思います。・・・が、「実のある」ふりをする空っぽの政治家はごめん被りたいですけどね。大言壮語しない人がいいのですが、そういう人は、票をあまり集めないのかもしれまっせんね。むしろ、短い扇状的な言葉で人々を煽る人の方が人気が出るのでしょう。でも、それって、とても危険だと思います。

台湾についての文章には、おっ、そういうこともあるかとドキッとしました。
「台湾は親日的という。が、湖南省で蔣介石に従って抗日戦を勝ち抜き、その後、台湾に逃れた大勢の人々の日本を赦せぬ思いは、世代を越えて今に伝わるとも聞く。(p.264)」

「日本を共通の敵とイメージして、中台関係が軟着陸することさえあるかも。(p.264)」

この視点は、頭の片隅に持っていた方がいいかもしれません。今後、台湾と中国が接近することは大いにありうるわけで、その背景に、こうした潜在的な思いが影響するかもしれません。台湾は親日的だから大丈夫とあぐらをかいていたらいけないのかもしれません。きちんと、リスペクトを持った関係を維持することが大切でしょう。これは、そのほかのアジアの国々に対しても言えることだと思います。

そして、著者の視点はマクロからミクロに縦横無尽に旅をします。
「何よりも、母音を鳴らし過ぎずに子音をはっきり常に立てようとする意識が、神田の日本語歌唱に沁み通っていた。そこが素晴らしかった。(0.178)」・・・これは、 神田沙也加についての文章です。片山さんのミクロの視点は、とても暖かい。

いいなと思ったら応援しよう!