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「異次元緩和の罪と罰」 山本謙三著 講談社現代新書

この本を読んでいて思い出したのですが、1960年、当時の池田勇人総理大臣は、「所得倍増」をスローガンとしました。これは分かりやすく、実際その後10年で倍増以上の成果を出しました。

それに比べ、異次元緩和「物価前年比2%増」・・これは分かりにくい。そもそも一般大衆は、物価の上昇を恐れるものです。政府と日銀がこの目標を掲げたとき、僕は、なんでこんな文言にしたんだろう?と思いました。「所得前年比◯%増」なら分かります。

経済には心理が大きく影響します。残念ながら、著者の言うように、「日銀が人々の心理形成メカニズムを熟知しているわけではなかった(p.198)」ということだったのかもしれません。

目標が当初の予定通り2年で達成されたのならいいのでしょうが、緊急対応のはずの異次元緩和を、成果の出ないまま11年も続けてしまいました。

その結果、「長期にわたる超低金利と大量の資金供給は生産性の低い企業の温存(p.160)」につながり、新陳代謝が阻害されたので、「値下げ競争が活発になり、イノベーションが起きにくくなる(p.160)」状況に陥ってしまいました。

日本のバブル期1980年代後半(1986-89)の消費者物価指数が前年比0%であったことなどを考えると、「物価2%を絶対視してよい理由はどこにも見当たらない(p.239)」のです。

日銀が目指しているのは、著者のいう「通貨の信認確保」であり「物価の安定」はその中の一つに過ぎない(p.262)といえます。

著者は、『いまの日本の経済政策を特徴づけるのは、財政ファイナンスに酷似した日銀の国債大量買い入れと、緩んだ規律のもとでの財政運営である。その結果として円安と物価の上昇が起きているとすれば、それは「通貨の信認をみずから低下させることによって、2%インフレを引き起こそうとした」かのように見える(p.280)』と指摘しています。

それにしても、「市中に滞留する巨額の資金を平時に戻すには、現実には異次
元緩和の11年をさらに超える年月を要するだろう(p.245)」とのことですから、これからしばらくは大変な時期が続くのかもしれません。

著者は、「日本経済の最大の課題は生産性の向上である(p.281)」と結論づけていますが、同感です。

日本の企業は、生産性が悪すぎます。僕は30年ほど前にいわゆる大企業を退職しましたが、あの頃も、無駄な会議や多すぎるし、無駄な手続きを増やさざるを得ない規則が氾濫していると思っていました。その状況は、今も変わらない、いや悪化しているとさえ思います。

道路の工事にあんなにたくさん監督者が必要ですか?
一言も発言しない人が会議にでる必要ありますか?
ネットがこれだけ普及しているのに、毎日出社する必要ありますか?
連絡だけだったら、チャットで十分じゃないですか?
成果主義というけど、どれだけ正確に成果を評価できてますか?
360度評価といっても、それは手間に見合った効果をあげていますか?
「私もそう思います」ばかりの会議で、なにか建設的な独創的な方向性は打ち出せますか?
会社は、就活生のエントリーシートからどれだけの情報が得られてますか?
なんで就活生はみんなリクルートスーツなんですか?

などなど、疑問に思うことはたくさんあります。人それぞれご意見もおありでしょうが。

著者は、元日銀理事で、リーマンショックや東日本大震災後の金融・決済システムの安定に尽力された方なのだそうです。


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