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「データでわかる2030年雇用の未来」 夫馬賢治 著 日経プレミアシリーズ

このまま何もしないと、地球温暖化は止まらず、先進国の少子高齢化が進み、食糧は不足する・・・。生成AIの発展により、仕事を奪われる人が増え、格差は拡大するでしょう。

著者は、そうならないために、産業革命が起こるだろうとのことです。産業革命は、ウェディングケーキ・モデルを考慮しなければならないと言います。

ウェディングケーキ・モデルとは、
「世の中の状況を、「経済層」「社会層」「環境層」の3つに分類し、そのつながりを表現したものだ。まず土台に「環境層」が、真ん中に「社会層」が、最上部に「経済層」が配置されている。そして、全体が持続可能になるためには、各々の土台となる層が安定的に発展する必要があるということが示されている。(p.29)」
です。

これは、簡単なことではありません。おそらく相当の年月を必要とすることになるでしょう。例えば、イギリス産業革命は1780年代から1830年代までの約50年間と言われていますが、他国への波及までを考えると、1900年ごろまでと言われており、その影響が落ち着くまで120年ほどの年月を要したとのことです(p.233)。

次の産業革命が起こるとすれば、その影響が沈静化するまで数十年を要するのかもしれません。僕は、生成AIの登場は、産業革命の始まりを示すものではないかと思っています。

数十年のレンジで考えると、
CO2削減対策として、新しい原子力発電手法、例えば「核融合型」原子力発電が稼働するかもしれません(p.57)。「核融合型」原子力発電は、現在の「核分裂型」とは違い、原料はウランやプルトニウムなどの核兵器の材料になるようなものではなく、トリチウムを使います。また、電源喪失したら、「核分裂型」は暴走してメルトダウンする可能性があるわけですが、「核融合型」は、ただ止まるだけです。50年後ぐらいには、うまく行っているのではないかと期待します。

さらに、「温室効果ガスが工場から大気中へ放出される前に回収してしまう手法(これを「炭素回収」という)や、大気中から直接的に温室効果ガスを除去する手法(これを「直接空気回収(DAC)」という)にも期待が集まっている。(p.59)」とのことです。これができれば、温暖化の問題は解決しそうです。

農業の分野では、「化学肥料、農薬、水の投入量を減らしていく新しい農法を確立しなければ、人類は農業生産量を長期的に増やすことができない。(p.92)」とのことです。AIの活用がキーになるかもしれません。

AIが雇用を奪うという話もありますが、著者によれば、「むしろ生成AIを巧みに操ることで業務生産性を向上させる人も出てくることも想定されている。(p.176)」とのことです。これは「補完性」と言われます。逆にいうと、「補完性」のない人たちは、仕事を奪われる可能性があります。新たな格差が生じるのではないかと思います。

すでに格差は大きくなっています。この状態が続いていくと、「政府の限りある予算を、経済弱者間で奪い合う「弱者対弱者」という構図(p.25)」が、顕著になって来るでしょう。すでに世界各国でそうした構図がいたる所で見られるようになってきています。AIの導入でますます格差が広がることになると、一体どんなことが起こるのか心配になります。

そうならないようにするには、教育の役目は重要だろうと思います。従来の知識をただ継承するだけではイノベーションは起きません。来るべき未来を想定して、そこから逆算して、来るべき未来に活躍できる人材を育てることでしょう。著者の言うように、年長者が若者に教えるというよりは、双方の対話の中で未来に向かっていくような教育が必要になるだろうと思います。著者は、そうした教育の例として吉田松陰らの「松下村塾」を挙げています。松下村塾は、高杉晋作や久坂玄瑞など幕末の独創的な志士を輩出しました。

この本によれば、新たな産業革命という大変革の時代にも、(うまくやれば)雇用は確保されるようです。持続可能な農業分野、サーキュラーエコノミー分野、資源採掘分野などで雇用が増えるし、「補完性」のある人たちへの雇用は確保されるでしょう。

しかし、相当の混乱の時代がやってくるだろうなと思いました。

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