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「ホワイトカラー消滅」 冨山和彦 著 NHK出版新書
僕は、バブル最高潮の1980年代初頭からバブル崩壊後の1990年代後半まで石油会社に勤めていました。
ずっと製油所勤務だったのですが、現場で働いていた人たちのスキルは素晴らしいものでした。彼らがいなければ、会社は成り立ちませんでした。運転部門では、微妙な運転調整もお手のものでしたし、検査部門では、微小な欠陥も見つけてくれたので、安心して運転ができたのです。また、トラブルがあった時には、現場の人たちが素早く対応し大きな事故にならずに済みました。
僕は、ホワイトカラーでした。偉い方々からは、「自分の収入の3倍稼げるようになれ。そうしたら一人前だ」と言われました。でも、ホワイトカラーで自分の力で「一人前」になるにはどうしたらいいのでしょう?当時、結構悩みましたね。運転現場にいた時は、装置の運転方法を改善して儲けを出すことを考えたり省エネ運転をして利益を出すこと、工務部門にいた時は、検査精度をあげて全体の工事費を減らすことかなと思います。新しい装置の建設にも関わったこともありますが、なんたって百億円もする装置ですから、そう言う機会は滅多にありませんでした。果たして、僕は「一人前」になれたのでしょうか?一応精油現場では省エネ運転と生産性の向上で、工務部門の最後の仕事は工事費の大幅削減だったし、そこそこ稼いだかな?とは思います。
しかし、著者からは、「現状、ホワイトカラーが企業で身につけてきた「スキル」と言えば、その多くは所属する企業固有の処世術である。これはシニアになるほど、地位が上がるほどそうなっていく。(p.169)」とバッサリと言われてしまいます。
ん〜、厳しい!そういえば、精油現場では省エネ運転と生産性の向上は、あまり評価されなかったですね。それより、「上座と下座をちゃんと覚えろ!」とか、「宴会で料理の数を間違えるなんて、感じとして最低だぞ!」とか、「先輩が残業している時には、先に帰らずに、『何かお手伝いすることありますか?』と言え!」とか・・・。また、「管理職になるんだったら、酒が飲めなきゃダメだ」と言われたので、せっせと飲んでいたら、「お前は酒ばっかり飲んで、なん編んだ!」って怒られましたし・・・。どうもその辺の「スキル」はうまく習得できませんでした。
とはいうものの、当時は、まだホワイトカラーの仕事は必要だったと思います。彼らが生産計画や工事計画を立てないと会社は回りませんでしたし。
しかし、これからホワイトカラーの多くの仕事は、どんどんAIに取って代わられるでしょう。
ホワイトカラー(ほぼ)消滅は、目の前に迫っています。一方現場の最前線で働いている人たちのスキルは、AIが代行できるものではありません。少なくとも今のところ・・・。
著者は、「エッセンシャルワーカーをアドバンスト・エッセンシャルワーカーに(p.113)」と主張します。
「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」とは、社会生活の基盤を支える職種において、高度な技能や知識を持ち、デジタル技術やAIを活用して生産性と賃金の向上を実現している労働者を指します。
「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」の需要が高まるなかで、大学の役目も変わってきます。
著者の以下の主張は、納得です。
「総合的な教養を教え、アカデミアであれ、ビジネスや政策であれ、グローバルリーダーの養成を展望するタイプの大学(G型大学)は日本全国で10校くらいあれば十分で、残りの大学は専門技能の教育を行って地域社会に貢献できる人材を養成する技能大学(L型大学)に転換すべきで、専門職大学というのは例外的に捉えるべきではない(p.116)」
「漫然とホワイトカラー予備軍を大量生産する昭和な大学モデルには一刻も早く別れを告げるべきである。(p.118)」
また、著者は、「あらゆる産業で「ややこしさ」に日本の勝ち筋がある(p.38)」と言います。日本人は、複雑な仕事が得意なのでしょう。今、IT部門やEVなどの分野で日本は遅れをとっていますが、超高級品の分野では活路があるのではないかと思います。複雑な動きをするロボットなどでは、その耐久性が注目され始めると、日本の繊細な技術に注目が集まるかもしれません。そのほか食の分野でも日本の繊細さが世界に知られるようになるんじゃないかなと思います。
これから日本は、少しずつですが、復活してくるかもしれないと思いました。復活は少しずつかもしれませんが、改革は迅速にしなけりゃならないだろうなと思います。
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