「人間通の名言」近藤勝重 著 幻冬舎新書
2024年5月に亡くなった名編集者の近藤勝重さんの、名言にまつわるエッセイ。
「生きるために……」で、かなりの間があり、会場がシーンとなったとき「俳優になって、あっという間に40年、時がたちました」(p.64)と続けたのだそうです。映画「ぽっぽや」で第23回日本アカデミー賞(2000年)最優秀主演男優賞を受賞した際の、高倉健さんのスピーチです。
しびれますねぇ!?
健さんにしかできない、健さんでなければ決まらないセリフですね。
名言は、健さんの言葉のように、自分の内面からなんの混ざり物もないままに生まれる場合と、他人の心についての観察から生まれるものが多いと言えるのかもと思いました。
「失敗の言い訳をすれば その失敗が どんどん目立っていくだけだ (シェークスピア)(p.27)」
「説教の効果は その長さと 反比例する (河合隼雄『こころの処方箋』)(p.32)」
「人生というものは 通例、裏切られた希望 挫折させられた目論見 それと気づいたときには もう遅すぎる過ち の連続にほかならない (ショーペンハウアー)(p.96)」
「人は判断力をなくして結婚し 忍耐力をなくして離婚し 記憶力をなくして再婚する (アルマン・サラクルー)(p.106)」
あたりは、なかなか皮肉が効いていて、にやりとしてしまいます。
しかし、人の心は、複雑てす。
「人間のすべての知識の中で
もっとも有用でありながら
もっとも進んでいないものは
人間に関する知識であるように 私には思われる (ルソー)(p.12)」
心が、あまりに複雑なので、そして、人は、ついつい自分に都合よく世界を解釈しがちなので、人間に関する知識、すなわち心理学は、もっとも進んでいないのかもしれません。近代の心理学は、たかだか100年程度の歴史しかありません。黎明期の学問なのです。
そんな心理学と格闘している僕の朋友の闘魂の心理学者である諸富祥彦さんの名言も紹介されています。
「私はここ、死にたい気持ちはそこ(諸富祥彦『悩みぬく意味』)(p.141)」
これは、諸富さんが鬱になって、あまりに辛いので、このまま電車に飛び込んでしまおうかと思った瞬間に浮かんだ言葉なのだそうです。
見事に死への衝動を外在化しています。さすが!
「ああ、生まれてきてよかったなあって思うこと 何べんかあるじゃない そのために生きてんじゃないのか そのうちお前にもそういう時が来るよ まあ、頑張れ (「男はつらいよ」第39作「寅次郎物語」)(p.72)」
これは、映画「男はつらいよ」の中のフーテンの寅さんの名言です。まあ、なんとかなるかもって気持ちになります。
名言の本というと、偉人・有名人の言葉を集めて、なんか自己啓発セミナーの教訓っぽくなる本が多いのですが、映画の中のセリフなども結構あったりして、肩の力を抜いて読めますが、逆に腑に落ちる言葉が多かったです。