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父のこと1 とんかつは知っている
「とんかつは知っている」
この3月で父の没後30年となりました。父は役者でした。芸名は高品格と言います。主役になったことはなく、最初から最後までずっと脇役で、名前は知らなくても多くの人が「あっ、テレビ(あるいは、映画)で見たことがある」という感じの役者でした。
なかなか面白かった(いや、あるいはかわった)人で、おかしなエピソードがたくさんあります。忘れないうちに残しておこうと思いましたので、これからぼちぼちと書いていこうと思います。
僕の幼少期、父の役は全て悪役でした。元ボクサーだったので、いいパンチをしているし、サウスポーだったので、主役の人との殴り合いのシーンでは、主役も悪役の父もカメラの方に顔が向くという点などが父のセールスポイントだったようです。
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写真の左が父
小学校時代、僕は、やんちゃなクラスメートから「昨日のお前のおやじ、酷かったなぁ!」などと、よくからかわれたものです。
しかし、私の父は、自分の悪役ぶりに誇りを持っていたのか、街で「あっ、あの悪役よ」などとささやかれても堂々としておりましたし、ニコニコとサインに応じたりしていました。
小学校4年の時、父の出演した映画が、夕飯時にテレビで放映されることになりました。父は撮影の都合で夜遅く帰ってくることが多く、父が自宅で自分の作品を見るということができないことが多かったのですが、その日は、たまたま父が家にいたので、家族揃って夕飯を食べながらその映画を見ることになりました。当時は、映画を自宅で見るというのは、いつもとちょっと違うワクワクするイベントでありました。
ところが、どうも母の機嫌が悪い。なんだかガチャガチャと音を立てて、キリキリとなってその日の夕飯のトンカツを作っていました。父はニコニコしながらテレビを見ています。
テレビの中の父はとんでもない役でした。コメディータッチの映画だったのですが、父は会社の偉い人で、美人秘書さんに横恋慕するという役だったのです。権力を盾にしてなんとか秘書さんをものにしようとする悪辣ぶり。母は、画面の中の父がよからぬことをするたびに何か音を立てるのです。
やがて、トンカツが出来上がり、僕の目の前にドーンと置かれました。
しかし、その向こうのテレビ画面では、父が秘書さんを押し倒し、腰を動かしているのです!
これはまずいことになったと思いました。2歳下の弟は、何も分からず、ぼーっとしています。ここは、長男である僕がこの場をなんとかおさめなければ・・・と思ったのです。
その時、あっそうだ!と思いついたので、それをそのまま口にしました。
「まるで、ポコみたいだね!」
ポコとは、当時飼っていた雄犬です。テレビ画面の中の父の動きが、ポコの動きに似ていたので・・・というわけなのですが。逆効果でした。
「バカなこと言うんじゃありません!」と母から激しく怒られ、父からは「静かにしろ」と嗜められました。
僕は、長男の役目としてその場を和ませようとしたのですが、その目論見は失敗に終わってしまったのです。
母はその後もプリプリしていて、父は自分の悪役ぶりをニコニコして見ておりました。この状況でニコニコテレビを見ることができるのが父の不思議さでもあります。
僕は、トンカツが好物だったのですが、食べた気がしませんでした。
まあ、今にして思えば、母は女優さんに焼きもちを焼いていたんですかね?あるいは、自分の旦那さんには、カッコよくいて欲しかったのかな?30代半ばとまだ若かった母なので、そんな気持ちにもなったのでしょう。そう思うと、ちょっと笑えてしまいます。
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