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「待つ」 太宰治 著 青空文庫

1942年6月に書かれた短編。

駅前の冷たいベンチで、ただ座って何かを待っている20歳の女性の話です。

彼女が座り始めたのは、大戦争がはじまったあとのことです。

彼女は思います。
「世の中の人というものは、お互い、こわばった挨拶をして、用心して、そうしてお互いに疲れて、一生を送るものなのでしょうか。」

彼女が待っていたのは、旦那さまでも恋人でもなく、お金でも、亡霊でもありません。もっとなごやかな、ぱっと明るい、素晴らしいもの。でも、それがなんだかわからない。でも、胸を躍らせて、彼女は待っているのです。

そして、最後は、
「私を忘れないで下さいませ。毎日、毎日、駅へお迎えに行っては、むなしく家へ帰って来る二十の娘を笑わずに、どうか覚えて置いて下さいませ。その小さい駅の名は、わざとお教え申しません。お教えせずとも、あなたは、いつか私を見掛ける。」
で締めくくられています。

これは、太宰が反戦と平和への願いを静かに訴えた小説なのでしょう。やはり戦時中に書いた「12月8日」のように。

当局から目をつけられるのを覚悟して書いたのでしょうか?でも、検閲に引っかかりませんでした。

それとも、わかる人には、太宰のメッセージに気づいてもらえると思って書いた小説なのでしょうか?



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