【夏休みの読書感想文】『非正規教員の研究~「使い捨てられる教師たち」の知られざる実態』を読んで(前編)
2校で同時並行勤務をしていた1学期を無事に終えました。前回のnote記事「先生ガチャ」の投稿が2022年4月7日なので、1学期はnote未投稿のまま終業式を迎えてしまいました。他の仕事もあったりして、やっぱり学期中は色々と忙しいですね。
夏休みの課題図書
夏休みになって初めての週末は、子どもと一緒に近所の図書館に行きました。子どもは夏休みの読書感想文の推薦図書を借りに、私は特にあてもなく新入荷図書をチェックしたり、ふらふらと背表紙を眺めていたり。と、何気なく教育コーナー(図書館に行くと必ず見る一角です)に、以前Web記事で見かけて関心を寄せていた新刊が在架なのに気がつきました。
佐藤明彦著「非正規教員の研究~「使い捨てられる教師たち」の知られざる実態」(時事通信社刊)です。
普段は本を読んでもnote記事にすることはないのですが、自分の事業にモロ直結するのと、自身が非正規で働く教員でもあるので、自分の思うところをnote記事にしようかなと思い、夏休みの読書感想文を書きました。
非正規教員の実態
本書の内容は、学校教育、特に公立小中高の非正規教員(企業でも使われる非正規という呼称は、本文中でも触れられているように法律・行政上の用語ではなく、ここでは有期の常勤講師や臨時的任用講師、非常勤講師を総称した、専任教諭との対比で使われている用語です)について初めて知る読者にとってみれば驚愕の実態だと思います。学校で働く教員の約2割が非正規であるという事実。ただ、学校現場にいる身からすれば、公立私立問わず、日本の学校教育の現場は教員に限らず様々な立場の非正規雇用によって成り立っていることは周知の事実です。学校に求められることが多様化する中で、また、学校業務を取捨選択し見直す中で、今後ますますこの流れは進んでいくでしょう。ALTやICT指導員など英語などの語学やプログラミング教育を担当する特別な資格を持った教職員が前者にあたり、部活動を部活動指導員に外部委託・地域移管する後者の流れも多くの場合は非正規教職員を頼ることになります。学校の現場に多様な雇用形態の教職員が存在すること自体は悪いことではありません。本書の中でもその点は強調されています。コアとなる正規教員の仕事をうまく分担しつつ、様々な関係者がそれぞれの立場で地域の教育に関与していくチーム学校のコンセプトは、それ自体は素晴らしい取り組みだと私も思います。
この非正規教員の問題に焦点を当てて事業を始めた私にとって、本の内容はほぼ想定の範囲内でした。本書の本文では、冒頭の非正規教員の先生方のエピソード(3月の終業式直前の担任交代の話はいつ聞いても児童生徒のことを考えるとやるせないです)も、文部科学省が出している雇用形態別の教職員の内訳と推移も、都道府県と県庁所在地別の正規・非正規のバラツキ具合のグラフも、非常勤講師の人数をカウントする換算数という計算のからくりも、そして現在の問題を引き起こす原因となった三位一体の改革(定数崩し、総額裁量制、国庫負担の割合1/2から1/3への減少)についてまで、データや資料をもとにわかりやすく網羅的に書かれています。
新たな気づきという意味では、教員の世代間人数分布の調整弁として非正規教員が使われていたということでしょうか。長期的な子ども人口の減少や、公務員の人件費の調整弁としての非正規雇用という位置づけは理解していましたが、教員の年代別分布の山のグラフを比較して、団塊の世代という山が大量退職するにあたり、単に同じ数を新規の正規採用で補ってしまうと新しい山の再生産になってしまう、というのは確かにそうだなと納得できるものでした。日本型雇用が失われつつあり転職が比較的一般的になってきた民間企業と異なり、公務員としての公立学校の教員は年功序列で、中途採用で世代分布の谷を補うことも難しいため、新規採用時に世代間のバラツキを平準化しようとする意向が働くというのは理解できます。
公民授業「メンバーシップ型 vs ジョブ型」は引き分け
さて、少し本書の内容から発展して、授業の話をします。私の担当の公民科では「働くこと」について様々な角度から取り扱います。あるときは、労働基準法などの労働法の観点から、またあるときは、青年期のいち分野として、どう生きるか、どのような生涯を歩むかを考えるなかで、働くこと、キャリアについて考えます。この1学期に私の授業では、経済と企業活動の単元の中で、正規雇用と非正規雇用、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用について取り上げました。最近では、メンバーシップ型とジョブ型の雇用形態の変化も教科書に登場するようになり、「この比較は日本でしかないんだけどね」と前置きした上で、その相違点について学び、生徒にどちらがいいか考えてグループで話し合ってもらいました。結果として、メンバーシップ型とジョブ型は意見が偏らずに結構分かれました。メンバーシップ型は安定重視や自分の強みがわからないから色々経験してから決めたいという意見があったり、ジョブ型は得意を極めれば食いっぱぐれない、会社の移動や転勤ではなく自分のキャリアは自分で決めたいという意見がありました。みんなしっかり考えていて面白いですね。
公民授業「正規 vs 非正規」は安定の正規一択
ただ、正規雇用と非正規雇用どちらがいいか問い掛けると、非正規雇用がいいと答える生徒はほぼいません。これはまぁそうですよね。中高生の段階からあえて非正規を目指そうとする生徒はそうはいません。
あえて積極的に非正規
なので、「私はあえて非正規教員を選択して、正規教員になるつもりはないんですけどね」と生徒に話すとびっくりされます。こいつ正気か。また変な先生が変なことを言っている、と。非正規のままである理由は、公立であれ私立であれ正規教員である専任教諭になれば副業ができなくなるため、事業をすることができなくなってしまうから、というのが直接的な理由です。加えて、学校外でも自由に事業をやっていて、いろんな生き方があるんだなという実例を身近な大人に見て取ってほしいという気持ちもあります。ただ、副業をしたいがために、授業をそつなくこなすことが目的ではなく、むしろその逆で、非常勤講師として高い価値を発揮したいという思いがあって教員をやっています。そうだな理想はこんな感じ、と言って、生徒にこんなドラマを紹介しました。
オリジナルのドラマは2007年放送なのですが、同じく篠原涼子さん主演で2020年にシーズン2が放送されたので、リアルタイムで見ていた中高生もちらほら。スーパー派遣社員の大前春子が高いスキルと志で難題を解決し、定時で仕事を切り上げてフラメンコを踊る(?)という痛快なお仕事エンターテイメントです。「私、失敗しないので」のドクターX~外科医・大門未知子~でも、医者のブラックジャックでも、ここで取り上げる題材は何でもいいんですが、ようは、非正規・派遣・フリーランスのような契約形態であっても、自分の得意なこと、好きなこと、譲れないこと、大切なことを突き詰めて、誰かにとっての価値を生み出すこともできるんだよというのが生徒へのメッセージです。
本書では、非正規教員がおかれた状況の改善のために6つの提言がなされています。長くなってしまったので前編はここまでにして、後編では改善のための提言について見ていきます。
(後編へ続く)
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