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ショートショート 本当の親友 ~男泣きに暮れた夜~

「よく言うだろ……。『逃した魚は大きかった』て」
 どうしようもない感情を、あてもなく放り投げるように浩平は口にした。僕は、ただじっと話を聞きながらグラスを傾ける。
「なんで、なんでもっと、有紀子とちゃんと向き合わなかったのか……。今になって、すごく後悔してる」

 浩平の目が、赤く充血してる。酒のせい、だけではないだろう。冬でもないのに鼻声がかった彼の声から、押し殺したような悲痛が漏れる。
「俺、何のために、がんばったんだろ……」
 どうしても、視線が浩平の右手に持った小箱に向かってしまう。男性が愛する女性に渡す、人生で最も大事な贈り物がその箱には納められていた。

 ポタッと、彼の目から小さな水滴がこぼれた。
 無念や後悔。どうしようもなさや、向け先の無い怒りや悲しみ。
やるせない思いがとめどなく溢れる親友に、僕はただ、なすすべもなくその場にいてやることしかできなかった。

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