ショートショート マスクの下で、ときめいて
通学路を歩く他の生徒の数が増えるにしたがって、私の胸もどきどきしてきた。
長期間の休校明けで、久しぶりの学校。
道を歩く、ランドセルを背負った背中が、ひとつ、またひとつと増えていく。次第に、にぎやかな声が大きくなるに連れて、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
「あ、えみこちゃん! おはよう!」
声の方を振り返ると、大きく手を振る、まどかちゃんの姿が目に入った。こっちに向かい、駆けて来る。
「えみこちゃん、久しぶり。元気だった」
「うん。まどかちゃんは?」
白いマスクの上部、まどかちゃんの目がほころぶ。つられて、私の口元も、マスクの下で自然にニッコリとなった。
「あ、けんせいくんだ!」
そう言って、前方を指さしたまどかちゃんが、声を張り上げた。
ドキッとしたけど、まどかちゃんの指先を見れない。
マスクがあって、良かったな。
だって、今の、私のこんな顔。
誰にも見られたくないから。
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