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ショートショート 光と音の恐演

 佐奈には、今のマンションでどうしても苦手な場所があった。
 それは、1階にあるごみ捨て場。重い金属製のドアを開けると、自動で数秒、薄明るい電球が灯る。じっとり湿ったその空間は不気味で、佐奈はいつも、慌ててごみを分別し、逃げるようにそこから立ち去っていた。

 ある日の夜、佐奈がごみを捨てに行ったときのこと。
(いつも通り、すぐに出よう)
 そう思ってごみ捨て場の重いドアを開け、薄い光が灯ったその瞬間――。見たくないものが目に飛び込んだ。
 サササッ、と物陰に散って隠れる、数匹のゴキブリ。

 ひっ、と喉から声が漏れ、佐奈はその場に硬直した。身を守るように両手を身体に引き寄せると、支えを失った重いドアが、後ろでバタンッと閉まった。
 恐怖と混乱で、咄嗟に身がすくむ。次の瞬間、パッと灯りが消えた。

 突然の闇。
 カサカサ、カサカサ。
 すぐ耳元でうごめいたそれが、ポタッと肩に落っこちた。

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