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Allan Holdsworth / i.o.u - 自分の聴覚に多大な影響を与えたレコード (3)

ブログの記事 (2020年9月26日) からの転載です。「聴覚に多大な影響」と言うと大げさですが、私の音楽の好みを形成したレコードというような意味で読んで頂ければと思います。


Facebook で回ってきたバトン「自分の『聴覚』に多大な影響を与えたレコード」の補足その3は、ギタリスト、アラン・ホールズワースの実質的なファーストソロアルバム “i.o.u.” について。

幼なじみにして俳優の 武田晋 さんからバトンを受けとりました。 10日連続で自分の「聴覚」に多大な影響を与えたレコードのアルバムカバーを1日1枚投稿してゆくミッションです。説明や理由は無しです。 3日目 Allan Holdsworth / i.o.u

Posted by Shunji Yoshimura on Tuesday, May 5, 2020

Allan Holdsworth / i.o.u. (1982, I.O.U. AH-100)

聴覚影響ポイント:指弾きのクリーントーンによるジャズ/ロック系ギターらしからぬバッキング

(「聴覚に影響を与えた」ポイントについてこれまでの記事ではちゃんと触れていなかったので、今回から最初に書くことにします)

アラン・ホールズワースは、私がロックやジャズに興味を持ち始めた1980年前後においては、いわゆる「ミュージシャンズ・ミュージシャン」、すなわち一般にはそれほど知名度はないものの、多くのミュージシャンからの尊敬を集める存在だったと思います。最初に彼の演奏に触れたのは多分大学1年の頃 (1983年頃) 友人に勧められて聴いた、ビル・ブラッフォード (ドラムス) のバンドBruford の “One of a kind” でした。それまでに既に、主にフュージョン系の音楽でテクニカルな速弾きギタリストは色々耳にしていたのですが、ホールズワースのギターはちょっと異次元でした。ピッキングを減らした異様に滑らかなフレージングとアーミングを駆使してわざと音程を揺らす不安定さ、そして斬新な音使いでウネウネと果てることなくフレーズを紡ぎ出すプレタイルはかなり衝撃的。一度ハマると抜けられなくなるような誘引力を持っていました。

ちょうど雑誌「ギター・マガジン」にも彼に関する記事が掲載されたので、それを参考に彼が過去に参加していたソフトマシーン、ゴング、ニュー・トニー・ウィリアムス・ライフタイム等を遡って聴きあさり始めました。

下はこの中からソフト・マシーン。1~12がホールズワースの参加したアルバム “Bundles” 全曲です。

そして興味を引かれたのがこの “i.o.u.”。I owe you、つまりは「借用書」を意味するこのアルバムタイトルは、実際これを録音した時点での彼の状況をそのまま表したものでした。名だたるバンドに参加しながらも大体アルバム1、2枚で脱退してしまうことを繰り返した挙げ句、ほとんど仕事がなくなってしまったのがこの頃の彼。ギターのリペアで何とか食いつなぎながら機材を形に借金をして、ようやく作り上げたのがこのアルバムだったのだそうです。確か吉祥寺の輸入レコード店で見つけて即座に購入。妙にどきどきしながら聴いたのでした。

メンバーはホールズワース以外にはボーカルにポール・ウィリアムス、ドラムスにゲイリー・ハズバンド、ベースにポール・カーマイケル。

ここでもやはり、彼のウネウネギターは健在でした。ものすごいフレーズをこれでもかと繰り出してきます。が、それについては想定内。むしろ印象に残ったのはそのバッキングでした。それまでエレクトリック・ギターによるバッキングと言えば、ロックにおいてはディストーションをかけた音のパワーコード (3度の音を省いたルートと5度だけの和音) や単音のリフ、ジャズやフュージョンにおいてはクリーントーンでのリズミカルなコード・カッティングが普通と思っていたのですが、ここでのホールズワースのバッキングはそのいずれとも異なるものだったのです。音色はディストーションをかけないクリーントーンで、右手はピックではなく指を使い、ギターではなかなか難しい密集和音を長い音価で響かせる、というスタイル。多分にキーボード的な発想のバッキングで、これがとても不思議で斬新に感じられました。結果として、速弾きのスリルだけではない彼の音楽的な魅力の奥深さを知り、さらに彼の音楽にのめり込むきっかけとなったのでした。

その後のホールズワースは、彼を尊敬するエディ・ヴァン・ヘイレンの口利きでワーナーからアルバムを出すことになるものの、メジャーレーベルの制約を嫌ってミニアルバム『ロード・ゲームス』を出して契約打ち切り、という相変わらずの展開。でもおかげでずいぶん知名度は上がり、自分名義のアルバムをコンスタントに出してライブも精力的に行うようになりました。私も来日公演には何度も足を運んでいます。

2017年に彼が亡くなった時はかなり大きな喪失感を味わいましたが、彼の音楽に出会えたことは私にとって大きな財産となっています。

なお、冒頭に「実質的なファーストソロアルバム」と書きましたが、実はこのアルバムの前に CTI から彼の名義で “Velvet Darkness” というアルバムが出ています。しかしながらこれは彼の意に反してリリースされたものだそうで、実際聴いてみてもその出来は正直なところ今一つ。よって “i.o.u.” こそが彼のファーストアルバムである、と考えるべきだと思っています。

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