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Vol.529「国際連盟脱退の深刻さと国連女性差別撤廃委員会への脅し文句の軽さ」

(2025.2.26)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…日本政府や「右派」の団体等が何かおかしなことをやると、即座に「まるで戦前の○○のようだ」と言い出す人が必ず出てくる。その論評の全てが誤りとは言わないが、そういう意見の大半は戦前の歴史について無知なまま、ただ「戦前の再来だ!」と言えば批判したことになると思っているだけの安直なものなので、放置するわけにもいかない。最新の「戦前の再来だ!」という発言は、1月末に日本政府が発表した国連女性差別撤廃委員会への報復措置発動が、昭和8年(1933)の国際連盟脱退と同様の暴挙だというやつだ。最初に断っておくが、わしも政府の女性差別撤廃委への「報復措置」が、とんでもない愚行だということ自体には全く異論はない。しかし、これと1933年の国際連盟脱退とは時代背景も事情も全く異なっており、同列には並べられない。戦前のそれと何が違うのか?ここではっきりとさせておこう!
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…かつてネットでは、「民主党のせいでこうなった」とさえ言っていれば、保守っぽいスタンスを醸し出して、エア・マウントを取ることができていた。だが最近は、そういうわけにもいかなくなってきたのだろう、左派ではない、新たな「いじり」対象を見つけたらしい。かつてなく「ブーメラン」の跳ね返りがはやく、次から次へと炎上ネタが投入されるという。それが「日本保守党」だ。ちょっと目を離しているあいだに、コップの中の嵐・・・いや、「おちょこの中の嵐」は、激しくトンデモない末期症状を呈していた!
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…「天皇さまはこんなに立派で正しくて素晴らしいと褒めちぎるのが、最近わしは疑問に感じています」をもう少し詳しく教えて!日本保守党をどう見てる?「おぼっちゃまくん」「東大一直線」「戦争論」等のファンや読者の反応が一番気になるもの?『おぼっちゃまくん』は「スポンサー無しで続いたアニメ!」という点をもっと宣伝するべきでは?…等々、よしりんの回答や如何に!?



1. ゴーマニズム宣言・第558回「国際連盟脱退の深刻さと国連女性差別撤廃委員会への脅し文句の軽さ」

 日本政府や「右派」の団体等が何かおかしなことをやると、即座に「まるで戦前の○○のようだ」と言い出す人が必ず出てくる。
 その論評の全てが誤りとは言わないが、そういう意見の大半は戦前の歴史について無知なまま、ただ「戦前の再来だ!」と言えば批判したことになると思っているだけの安直なものなので、放置するわけにもいかない。

 最新の「戦前の再来だ!」という発言は、1月末に日本政府が発表した国連女性差別撤廃委員会(CEDAWと略するらしいが、アルファベットの略称はわけがわからんので使わない)への報復措置発動が、昭和8年(1933)の国際連盟脱退と同様の暴挙だというやつだ。
 最初に断っておくが、わしも政府の女性差別撤廃委への「報復措置」が、とんでもない愚行だということ自体には全く異論はない。これは日本の威信を果てしなく低下させる「国辱行為」であって、これを批判しないどころか、総出で歓迎している「右派」とか「保守」とかいう者たちは、全部ニセモノだと断言していい。
 しかし、これと1933年の国際連盟脱退とは時代背景も事情も全く異なっており、同列には並べられない。ここははっきりさせておかなければならない。

 昨年11月、女性差別撤廃委は、皇位継承を男系男子に限る皇室典範は女性差別であるとして、日本政府に是正を求める勧告を行った。
 林芳正官房長官はこれに対して「強く抗議するとともに削除の申し入れを行った」と表明。
 さらに林は「そもそもわが国の皇室典範について取り上げることは適当ではなく、当該記述は削除されるべきだ」と強調した。
 林芳正ももう少し見どころがあるかと思っていたのだが、これほどのバカだったのかとわしは失望した。
 皇位の男系男子限定継承は、国連に言われるまでもなく「女性差別」以外の何物でもない。男系男子限定は明治に法制官僚・井上毅が主導して定めた制度にすぎず、しかも井上はその理由について、日本では「男尊女卑の気風が人民の脳髄を支配」しているためと明言していたのだ。
 林芳正は自民党総裁選の際に「仁」の政治を掲げていたが、女性差別を守ることが林の「仁」だったのか?

 もちろん女性差別撤廃委がこんな抗議なんか聞くわけがなく、勧告の記述は削除されなかった。
 すると日本政府はさらに逆ギレして「報復措置」を発表した。女性差別撤廃委を管轄する事務局である国連人権高等弁務官事務所に対し、日本が支払っている拠出金を撤廃委には使わせないと通告したのだ。
 そんな脅しをかけるくらいだから、日本はさぞかし多額のカネを出しているのだろうと思ったら、日本が同事務所に拠出している額は2024年の当初予算ベースで、約2340万円だという。たったそれだけ!?
 しかもこれは使途特定型の任意拠出金で、具体的には北朝鮮の人権状況の改善、ハンセン病差別撤廃に関する活動などを指定しているという。ただ、拠出金が余れば他の使途に回されることもあるらしいが、実際に日本の拠出金が女性差別撤廃委に使われた実績は、少なくとも2005年以降はないらしい。
 要するに、今まで1円も使ったことのない女性差別撤廃委に対して、「そんな勧告を出すならカネ出さないぞ!」と凄んだのだ。
 これではチンピラの恫喝にすらならない。単なる恥さらしである。

 さらに日本政府はもうひとつの報復措置として、コロナ禍による5年間の休止を経て、今年再開する予定だった女性差別撤廃委の訪日プログラムを見送ると発表した。
 同プログラムは、2人から4人の委員を招いて国内の関係当局との意見交換や大学などの教育機関で講演活動をしてもらい、女性差別撤廃に関する日本の取り組みに対する理解を深めてもらおうというものだった。
 これを中止することが、一体なんの「報復」になるのだろうか? 日本の側が理解を深めてもらうことを一方的に拒絶し、「日本は男尊女卑の国である、文句があるか」と居直っているだけではないか。

 外務報道官の北村俊博は、1月29日の記者会見で
「皇位につく資格は、基本的人権に含まれておらず、資格が男系男子に限定されていることは、女性差別撤廃条約にいう差別に該当しない」
「皇位継承のあり方は、国家の基本に関わる事項で、CEDAWが皇室典範を取り上げることは適当でない」
との従来どおりの政府見解を繰り返した。
 それにしても、日本政府にも、外務省にも「女性差別撤廃条約」をちゃんと読んだ人は一人もいないのだろうか?
 条約の正式な日本語タイトルは「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」である。「あらゆる形態の差別の撤廃」であり、そこに例外規定は一切ないのだ。
 条約は全ての人間に人権があるということを大前提としている。わしとしてはその人権思想には異論があるが、少なくとも条約ではそうなっており、例外は認めていない。その条約を日本が批准している以上は、勝手に「皇位につく資格は人権の例外」などと主張しても通用するわけがないのだ。

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