【テンペラ画制作過程5】図像を描きこみ、精度を上げる。
2023 12/13(水)
今日は、朝から一日アトリエで作業をしました。
この技法、クリアな発色と堅牢な画面を作ることができる古典技法なのですが、テンペラ絵の具(卵の黄身をメディウムにした絵の具)に延伸性が無いためハッチング(細長い点描)を塗り重ねながら描きます。
6時間描きこみましたが、テンペラ絵画は点描での描写なので、時間がかかり、まだ図像の完成には遠いようです。
絵の具と技法の特徴によりルーベンスなどの油彩を用いた作品に対し、描かれたものが少し硬直してみえることも絵の具の特徴によるものです。しかし、近代のテンペラ作品でもサルバドール・ダリの「ガラの測地的肖像」のように滑らかで柔らかな印象の作品もあるので、技術力によって克服できている作品もあるようです。
◆今回は画面の陰影の部分にテールベルト(緑系)を用いたりハイライトにチタニウムホワイト(不透明な白)を用いて光の色や空間を意識しました。
暗いところと明るいところを意識しながら画面全体を描きこむことができたので、図像が締まり、形が浮き出てきたように思います。
しかし、光の方向が今一つはっきりしなくなってきました。
再度全体を調整して、襟などの細かな文様を描きこんで完成です。
私の作品は12×10㎝の小さいものですが、原典は”マニフィカトの聖母”という118㎝×119㎝の円形作品の一部です。
実物も油彩ではなくテンペラ絵の具(卵の黄身をメディウムにした絵の具)で描かれ、すべてハッチング(点描)での描写になっています。
もし、実物を見る機会がありましたが近寄ってみて細部の描写がどのようであるかをぜひ見てください。
描き進んでいるうち、参考資料としている作品のなかに人物が構造的に矛盾しているところを発見することがありました。
先生と一緒に見ていて「リアルであるという事よりも構図を重視しているのかも」と話し合ったりします。
また、すべてのメンバーの”顔”に力点が注がれていることに対しては、この作品が「なにものか(複数人)の肖像である可能性」「単なるマリアを主題とした宗教画の一枚」とう争点もあるそうで、私が「顔絵」を描くにあたって選んだポイントもそんなところにあったのかもしれないと思いました。
この絵画自体もマリアが「マニフィカトを(読んでいるのではなく)書いている」という珍しい図像。依頼主からどのようなリクエストを受けて、どんな場所に展示するために、なにを重要視して描かれたのだろう?と様々なことを思いめぐらしてしまいます。