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世界王者

モスクワ滞在の最後に見たのは、80年代後半にソヴィエト連邦のモスクワを拠点に活動したЧЕМПИОНЫ МИРА(World Champion)の回顧展だった。ロシア国内でもこれが初の回顧展だというから、おそらく日本ではほとんど知られていないのではないか、実際僕も全然知らなかったし、2021年になってもソ連時代に活動した自由なアーティストの歴史なんかほとんど情報が入ってこない。生きてるアーティストの情報が少ないし、そもそも現存しないアーティストの情報はどんどん消えているのかもしれない。World Championのメンバーはまだ元気みたいで、オープニングにもその後の晩餐会にも参加していた。

展覧会入り口のキャプション

展覧会にはモスクワのアーティストらがたくさんきていて、活気があったけれど、モスクワの若い世代にどう映っているのだろうと気になってしまった。

展覧会の始めのほうには、クレムリンの壁を思わせるレンガの壁があって、そこにアーティストの生誕と死去(を思わせる?)の日時が書かれた小さなペインティングが飾ってある。80年後半のソヴィエトには、多少自由な雰囲気があってある程度は自由に制作はできたけれど、自由に展覧会を開くことは難しく、ほとんどの場合は自宅で「秘密裏」に行なわれていたものが中心だったという。または、80年後半にすでにスイスや他の国も展示をやっていたようなので、他のヨーロッパに招待された時だけは少し自由な雰囲気を感じられたのかもしれない。

その活動の一部で、モスクワにある古いバーニャ(ロシア式サウナ)のプールで展覧会を開いた時の記録があった。偶然にも前日このバーニャを訪れており、なんとなく時代を感じるものだった。残された少ない記録から当時の雰囲気を感じることはできるけれど、ソヴィエトが消滅してロシアで生きる我々がここから何を学ぶことができるのだろう。単なるノスタルジックなアーティストの記録にならなければいいなと思って、モスクワを去った。

このコレクティブは、それぞれ個別で制作しがら、時々気分によって?は協働するという緩いコレクティブとして活動したようで、常にグループでの活動を優先したわけではないようで、この回顧展でもそれぞれのアーティストの個人制作したものと、グループで制作したものが混在していた。面白いのは、グループとして最後に制作した「豚」のペインティングだった。なぜ彼らがこの作品を最後にして協働制作をやめてしまったのかは、よくわからなかったがソビエト崩壊のムードと(世界王者を冠したグループ維持のモチベーションが別のところに向けられた?)連動していたのではないかと僕は思ったけれど、どうだろうか。いずれにせよ、およそ30年以上前にソビエトで活動した彼らの状況を想像するのは難しくないけれど、そのリアリティーを体験するのはかなり難しい。こうやって今やある程度の移動の自由や表現の自由が確保されている今となって、共産主義の下で制限された芸術活動にどのような展望と希望を持っていたのだろう—メンバーアーティストらはオープニング後の晩餐会にも現れて、たくさんの酒を飲んだ。

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