日本語教室の「少人数学習」[23]
日本語学習をより充実したものにするために、私がこだわっている学ぶための環境設定についてまとめています。今回の記事では、環境設定の最初の論点として「少人数での学習」という観点からその特徴や効果についてまとめておきたいと思います。
私は2020年に日本の公立高等学校を退職し、その後オランダへ渡り、現在は日本語教室で日本語学習のサポートをしています。日本の高校生を教えていた時に不足していると感じた、「ものごとを幅広く深く考える力」をつけるために、必要な言語の習得及び運用について学びながら、子どもの読み書きの習得から、日本帰国へ向けた中学生のサポートや、IB(国際バカロレア)に通う高校生のサポートなどをしております。
「学習」において大切にしていること
私が日本語教室での授業において最も気をつけていることは、子ども自身が「自分の意志で学んでいる」と感じる環境を整えることです。日本語教室は学校ではないため、行くか行かないかを自分で決めることができます。また、普段の学校では違う言語で学んでいる子どもが多いので、日本語学習に対する「モチベーションの管理」が、私にとっては最も大切な役割と考えています。
私のこだわりとして、国語に限らず社会科でも算数でも、授業を通じて「自分の考えを持つ大切さ」「他者と協力する喜び」を感じて欲しいという気持ちで授業をしています。特に小学校低学年の場合は、大抵保護者の意向で日本語学習がスタートします。しかし、授業が進むにつれ、子ども達自身が「日本語での先生や友達との繋がりを大切にしたい」「もっと学びたい」と思えるようにしていきます。
そこで、子ども達が自ら学び、学び続けたいというモチベーションを維持するためにどんな環境を設定するのかについて、ここでは「少人数の学び」という観点からまとめていきます。
少人数の学びの効果を分析するためには、常に子ども達を観察し、効果を確かめながら自分へのフィードバックをしていかなければなりません。また、子どもと接している時の子どもに対する言葉がけや表情、こちらの態度や行動の全てが影響することを忘れてはなりません。
「個別指導」と「集団指導」の特徴
かつて、公立の高等学校では、個別指導と集団指導の両方を経験し、それぞれの役割が大きく異なるということを学びました。
「集団指導」では、子どもの「社会性を身につけること」を重視しました。子どもが集団の中の一人という意識を持つため、そこでどのような役割を持たせるのかを考え、子ども同士の関わりによる学びを中心に授業を組み立ててきました。集団指導という性質上、個々を丁寧に観察することに関してはどうしても限界があります。
一方、「個別指導」となれば、先生と子どもの距離は近くなります。そのため、集団の中の一人というよりは、「個人」としての意識が強くなるので、先生との会話を中心に学びを構成することができます。子どもの得意・苦手を把握しやすいのがこの個別指導の特長でもありますが、先ほど集団指導で意識していた子どもの社会性を身につける活動は不足してしまいます。
ただ、「個別指導」と「集団指導」は、どちらも性質が異なるため優劣はありません。子どもの成長にとってはどちらも不可欠で、先生はどちらの形態も同じやり方で進めるのではなく、その違いをうまく活かして授業を展開することが必要だと思います。私が公立高校で授業をしていた時は、「個別学習の時間」と「少人数でのグループ学習」と「クラス全体の活動」などを意図的に分けて展開していました。
「少人数の学び」で先生も生徒もみんなつながる
私の日本語教室では、少人数で学びます。そもそも、日本語を学びたいという生徒の需要の問題もありますが、「少人数での学び」の効果を意識して授業をするかどうかでも子どもへの影響は変わってきます。
「少人数の学び」というのは、ちょうど個別指導と集団指導の間の役割があるように思います。集団の中の一人という意識は薄くなってしまいますが、先生との距離も近いと感じながら、子ども同士のつながりも保つことができます。海外で日本語を教える場合は、この「少人数での学び」が適していると私は考えています。その理由について、以下で述べていきます。
海外で暮らしていると、多くの子どもは日本語に関わる時間が限られています。そのため、その限られた時間の中で、先生も含め友達との日本語学習に対して主体的な関わりをなるべく多く確保する必要があります。また、同じ年齢でも日本語のスキルには差があることも多いので、こちらが子ども一人ひとりの定着度をより丁寧に把握することもできます。
つまり、日本語に触れる時間が限られている状況では、「少人数での学び」によって先生が生徒の学習状況をなるべく正確に把握し、かつ子ども同士のつながりを大切にすることができるのです。特に子どもにとって、学校とは違った空間でつながることができる「新しい友達」の存在が、日本語学習のモチベーションを維持するのに寄与します。
子どもからの発信を大切にする
子ども達は本来いろんなことに興味があって、「これは何?」「なぜこれはこうなっているの?」という疑問をたくさん持っています。その子どもの好奇心を、少人数という限られたメンバーの中で存分に発揮し、うまく学習につなげることが重要だと思っています。
授業では、主に「日本の教科書を使った学習」と「日本語スキルを鍛える学習(表現や漢字)」を毎回行います。それ以外にも、「遊び」の中で日本語をたくさん使う活動をしたり、時には子ども達が考えた企画を取り入れることもあります。そうすることで、子ども達が日本語の勉強によって力を付けていると感じつつ、自ら授業に積極的に参加する喜びを感じられるようにします。
私が公立の高校で授業をしていた時、子ども達がどこか諦めを感じながら「これはやらなければならないもの」として授業を受けているような感じがしていました。もちろん、授業の中ですべてのことが自分の思うようにはいきません。
しかし社会に出た時に、自ら社会に関わろうという気持ちを抱くためには、まずは授業で「やってみよう」「こんなことを提案してみよう」という姿勢を持たせる必要があります。それは、何でもかんでも自由で周りを振り回すという意味ではなく、自分が関わることでみんなの授業が楽しくなっていく、先生も一緒にみんなで話し合ってより良い授業を作っていくという経験を通して、自分の考えや力をみんなの学びに貢献させる喜びを感じてもらいたいと思っています。
「楽しい+成長の喜び」があると子どもは継続して勉強する
最後に、オランダで小学生の子ども達を教えてから実感したことについて記しておきます。子どもは、ただ単に遊びだけの「楽しい」ではいずれ飽きてしまいます。しかし、楽しさの中に「自分の成長を感じる喜び」があると、自ら続けて勉強することができるということが分かりました。こういった意味では、子ども達は本当に正直だなと思います。これからも子どもたちが自分の成長をより感じられるように、活動や成果に対するフィードバックは怠らないよう常に心がけていきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。