子どもの「ナナメの関係」として、保護者の不安にも寄り添いたい【Aflevering.26】
オランダのデン・ハーグにある日本語教室で小学生から高校生までを対象に、週に1回90分で授業をしております。
オランダ語や英語など、現地の言葉が強い中で、日本語を維持すること自体とてもハードなことです。しかし、家庭だけではなかなか難しい「教科の学習言語」を中心に日本語力を伸ばすサポートをしております。
保護者の方からは、
「日本にいる祖父母と話して、『日本語で話すのが上手になったね』と褒められて子どもが嬉しそうだった」という声や、
「自分の名前を漢字で書けるようになって誇らしく見せてくれた」
という声をいただきました。教室に通っている子どもにとっても、大変な日本語学習が報われた瞬間だと思います。
保護者との関わり
私は日本語学習をサポートするという立場であると同時に、日本語学習という関わりの中で「自立した学習者を育てる」という、子どもの人格形成に関わっているという気持ちがあります。
そういった意味では、子どもの成長に関わっている身としては、保護者の方との連携を絶やすことはできません。
保護者とのつながりを大切にするため、授業の様子を毎回報告するようにしています。その日の学習の流れや、子どもの頑張っていた姿、言語の成長などを報告しています。
さらに、その日の授業の雰囲気が分かるように、成果物の写真や発表の様子をおさめた動画、作業しているところの写真などを共有しています。また、保護者の方からも子どものことで不安になったことは何でも相談していただけるようにしています。
家族の規模が小さくなってしまった現代では、子育てに関する親の負担はとても大きいです。私たちも子どもの育て方について悩むことがよくあります。そんな時に、我が子のことを知っている人から意見を言ってもらうことはとても助けになります。
これが「ナナメの関係」です。
週に1回しか会わない立場ではありますが、保護者から子どものことでご相談をいただく場合は、ナナメの関係である大人としての意見を言わせていただいております。
それは、保護者の考えに賛成でも反対とかでも、ましてや「答え」でもない、日頃の子どもの様子を見て私が感じたことをただお伝えするようにしています。
保護者にとってみれば、子どものことで不安に思ったことを、日本語教室で頑張る様子を聞いて、我が子の良いところを再認識して安心することができます。
子どもにとっては、家庭が一番心が休まる場所であってほしいと思っています。そのため、保護者が不安を解消して子どもと向き合うことができればそれが何よりです。
「ナナメの関係」として子どもの成長に加わる
ただ子どもたちに、日本語の力を付けさせようと思って、教室の中だけの子どもの様子で判断してしまっていたら、きっと子どもたちとの関係は上手くいっていないと思います。
日本語教室に来る子どもたちは、学校で嬉しいことも辛いこともたくさん経験してきた後に教室にやって来ます。
「今日は良いことがあってうきうきしている」とか、「今日はなんとなく疲れている」と感じている時もあるでしょう。
気持ちが前向きになれない時でも、私はその心に共感するようにしています。それでも子どもにとって、一緒に楽しく勉強する友達や先生がいれば学び続けることができると思っています。
しかし、学習者として教室にある物や友達を大切にできない時は厳しく叱ります。教室の中に、「優しさ」と「厳しさ」があることによって、子ども達は安心して学習することができます。
また、授業以外での子どもたちの様子も見たいと思っています。製作系のワークショップや、屋外でのあおぞら教室などの活動で子どもたちの日頃の授業の様子とは違った姿を観察するようにしています。
そして、その様子を見て感じたことも保護者のみなさんにお伝えするようにしています。
日本語学習を通して他言語の学習にも活かしてほしい
幼い年齢で複数の言語を学ぶことはとても大変なことです。それに共感して、日本語の力をつけられるように「一緒に頑張ろう」と励まします。
日本語が母語である子どもには、なるべく学年相応の日本語力を付けてもらい、現地語や英語を習得する力としても役立ててもらいたいと思っています。
また、第2・3言語として日本語を学んでいる子どもには、日本語での友達や大人との関わりを大切にしてもらい、日本語は学ぶべきものではなく、学びたいものであってほしいと思っています。
そして、学習に対する姿勢や、概念として学んだことは転移し、他の言語の学習の際にも現れる(カミンズの2言語共有説より)とされているので、日本語教室での学びが学校での学習に良い影響をもたらしてほしいとも思っています。
複数言語を学ぶことが大変でもありますが、子どもの発達においてメリットもあります。
なるべくそれを実現できるように、日本語の学習でできる限りのサポートをしたいと思っています。
私たちが授業を充実させることは当然として、子どもが幸せに育つために必要な、保護者にも寄り添えるサポーターであり続けたいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。