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バイリンガル(マルチリンガル)の子は「新しい概念」を何語で学ぶのか?【Aflevering.184】

 2022年の4月を迎え、日本では新年度を迎えました。今日から新しい生活が始まった方も多いのではないでしょうか。
 オランダでは9月に年度が変わるため、新年度を感じることはありませんが、公園などで桜を見ては春を感じています。
 日本ほどははっきりしない4月ですが、今日は雪が降り積もっていました。私が住んでいる地域では、この冬は一度も目にすることがなかった雪景色を楽しみながら朝の時間を過ごしました。

ここ最近の振り返り

 2月ごろから日本語教室の方も新たな問合せをいただき、火曜日を除く全ての時間帯は授業をさせていただけるようになりました。新規で通われるお子様の保護者との面談、時間割やクラスの編成など、新しい体制を考えて実行に移すまでの約2ヶ月もの間はアウトプットをする余裕すらありませんでした。
 しかし、新たに始まったいろんな年齢のお子様のサポートをする中で、自分なりに気づいたことや考えたことを記録しておきたいと思います。

 現在私は日本語学習のサポートをする講師として、4歳から13歳まで幅広い年齢のお子様の学習に関わらせていただいています。
 日本語学習サポートと言っても、日本のカリキュラムに捉われない「海外生活の中での日本語」としての授業や、日本への本格的な帰国に合わせ、日本のカリキュラムに基づいた授業(国・算・理・社)などを行っています。

新たな学習サポートへの挑戦

実験動画も使いながらの授業(理科)

 この春からは、「日本語学習総合サポート」のようなお仕事もさせていただくことになり、日本の小学校のカリキュラムに合わせて英語以外の科目のサポートをしています。つまり、国語と算数に限らず理科や社会の授業もオンラインで行います。
 私は理科や社会の科目にも魅力を感じています。言葉の力は、文字や物語だけでなく身の回りの現象や社会について興味を広げて考えることでも伸びていきます。そして、その科学が持つその素晴らしさを日本語で子どもたちに伝えたいと思っています。
 授業をすると決まってから、学習指導要領や教科書、過去に小学校の先生方の授業実践などを読み込み、それぞれの科目・単元でどのようなことを学び、どのような力をつけてもらったら良いかを考えてきました。

 しかし、「オンライン」での授業、そして学校には及ばない設備の中ではできることも限られています。
 そこで私は自治体等が公表している「実験動画」を使うことにしました。授業の構成としては、単元について身近な例を確認した後は、事象そのものに注目して仮説を立て、実際に実験をしている動画を見ながら話を進めています。
 実際に手で触れることはできませんが、なるべく実世界から離れた机上の空論にならないように配慮しつつ進めます。「考える」こと自体を楽しむのを主体とするこの授業でも、子どもたちは意見を積極的に言ってくれたり実験動画を真剣に見ているので一定の効果があると感じています。
今はサポートを始めて1ヶ月ぐらいなので、今後も様子を見ながら進めていきたいと思います。

 そして、この授業から「海外での日本語学習」にもこういった実験動画を用いた授業をしても面白いのではないかと考えており、今後教室での授業にも取り入れてみようと考えています。

インターナショナルスクールに通う日本人の基礎学習サポート(理科・社会)

 小学生のサポートの他に、インターナショナルスクールに通う中学生のお子様の理科・社会のサポートもさせていただくことになりました。こちらは小学生のように日本のカリキュラムに合わせて行うのではなく、子どもたちが通っている学校で学ぶ「理科・社会」の学習内容を補助するサポートです。

 母語(継承語)としての日本語が、まだ育ちきっていないお子様が英語で学ぶ学校に通う際、理科や社会で学ぶことを「これは日本語でどう言うんだろう?日本語でどんなものなのかを説明してほしい」と思うそうです。
 もちろん、日本語を主に話す子でも英語の能力が高い場合は、英語でその説明を受けて理解できるかもしれません。しかし、英語の能力が発展途上の場合は、第一言語に頼りながら学習を進める必要があります。
 第一言語で学ぶとは言っても、脳の中になるべくイメージとして残りやすいよう配慮し、日本語で学んだことを英語で活かせるようにします。

 特に私がサポートさせていただいているお子様が通う学校はIB(国際バカロレア)のカリキュラムで学んでいるため、日本でいう中学3年や高校で学ぶ内容も平気で13歳で学んだりします。また、学習内容もただ知識を覚えれば良いのではなく、学んだ知識を使ってどのように自分で立論し考えをまとめていくのかが求められています。
 私は個人的にはそういった実世界につなげようとする学びには魅力を感じているので、そこで日本語のサポートで助けになるならと思い、日本語での解説をさせていただいております。
 とは言っても、ただ課題をこなすためだけのサポートとしては日本語の力も付かないので、子どもたちにきちんと日本語で「定義を確認する」、「自分の言葉で説明する」、「ノートにまとめる」、「学習を振り返る」活動をしてもらいます。学習に対する姿勢は言語を超えて身についていくのです。

バイリンガルの子は「新しい概念」をどのように学ぶのか?

 最後に、私が最近の日本語サポートを通して考えたことが「バイリンガルの子は『新しい概念』をどのように学ぶのか?」です。その答えは、「その子の言語発達状況による」だと思っています。
 「全てのバイリンガル(マルチリンガル)の子どもたちに通用する処方箋のような教育法はない」と言われるように、子どもたちがこれまで育ってきた環境、触れてきた言語の質と量によって変わってきます。

 私がサポートしている生徒は、小学校までは日本の学校で教育を受けてきたので、日本語の力としては年齢相応に身についています。そのある程度仕上がった日本語の土台を使って、インターナショナルスクールで学ぶことになります。やがて英語の理解が深まってくると、日本語での説明がなくても英語での説明のまま学習内容が理解できるようになっていくので、それまでの日本語を使った「考える力」を鍛えるサポートをしています。
 その一方で、6歳の私の娘は継承語である日本語もまだ発展途上です。学習言語はオランダ語であるため、こういった子どもにはまた別の方法を考えていかなくてはいけません。むしろ日本語の力が衰えないように、土台作りをしっかりしておかなくてはいけないと考えています。

新体制で学んだことを子どもの学びに反映させる

 私がサポートできるのは、日本語の力を育てることと日本語での理解を促すことです。そして、日本語で学んだことを他の言語でも活かせるように、学習に対する前向きな姿勢を養い「生きる自信」を感じてもらいたいと思っています。

 講師である私が新しい日本語サポートで気づいたことを、日本語教室の子どもたちみんなに反映させることができれば、子どもたちの生きる力を育むことができ、またさらに新しい気づきを私に与えてくれると思っています。
 海外での日本語教育は、「家庭との連携」が何よりも大切です。保護者の方としっかりタッグを組んでこれからも前に進んでいきたいと思います。

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