見出し画像

「学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する」第2章5つのディシプリン

 前回は、第1章についてのポイントや学んだことをまとめました。そして、今回は第2章「5つのディシプリン」のポイントと学んだことをまとめていきます。


 本書では、組織学習の重要性について指摘しています。組織的な学習が行われるためには、深い学習サイクル3本足の丸椅子が必要であると述べています。
 組織では、生産的な会話や理想的な状態や願望を持ち、価値観や世界観が変化することを受け止め、新しい手法などを実践的に取り組めるようにすることが重要だと考えられています。
 丸椅子の3本足は、どれ一本が欠けても椅子が立つことができないということから、3本とも重要であることを示しています。1本目は、「個人的・集合的な願望を明確に表現する(自己マスタリーと共有ビジョン)」、2本目は「複雑性を認め、管理する(システム思考、メンタル・モデル)」、3本目は「内省的な思考と生成的な会話(メンタル・モデルやチーム学習)」とされており、それぞれが機能することで学校組織は改革できるとされているのです。5つのディシプリンの項目ごとに詳しい説明が加えられています。

自己マスタリー

 学校で学ぶ子どもたちは、自分自身の目標を持たないまま日々を過ごすことが多いのではないでしょうか。学校に行く意味を感じられず、どうやったら先生を喜ばせ、良い成績を取れるのかというところに思考がいってしまうようです。そういった外部依存の学びは、やがて学ぶことそのものにある楽しさを奪ってしまうと書かれています。

3つのプロセス

 創造的な方向づけには3段階のプロセス「ビジョン、今の現実、コミットメント」が必要だと考えられています。それが、忍耐強さや周囲の世界への関心と大きく関係し、そういったプロセスの中で、自分の力に気づくようになり、人生を通じて自信を持って目の前にある課題が少し困難でも立ち向かえる姿勢を身につけることができるとされます。

 このプロセスでは、自分が叶えたいと思うビジョンと、それに対しての今の自分の状況、そのギャップを埋めるための一定期間従事することを示しています。もしも、自分の目標が明確でない場合は、目標を低めに設定したり、状況が悪化するまで放置したりするそうです。

ビジョン(どうありたいのか)

 まずは自分のビジョンがどのようなものであるのかをじっくりと考え対話することが重要だとされています。細かいプロセスは本書に書かれているので、それを実践すると良いと思いますが、リラックスした状況でビジョンを言葉に出し、ビジョンを達成した時点の状況を複数の視点から考え、よりビジョンを身近に感じられるようにしなければならないようです。

今の現実とプロセス

 ビジョンを実現するためには、今の自分が置かれている状況をしっかりと見つめる必要があります。そのため、いろんな角度で、学校の状況、勤務状態、家庭での自分やその他の自分を取り巻く現実を深く理解していきます。そして、ビジョンに近づくためにどのような行動をとるのか、その時のリスクなども含めてしっかりと考える時間を設けることで、自分のビジョンが確固たるものになると考えられています。

共有ビジョン

 私たちはリーダーの指示にただ従っていれば良いと考えると、自分から何かを創り出したりすることができなくなってしまいます。リーダーのビジョンをみんなが共有するのではなく、一人ひとりがもつビジョンを共有しながら、組織が生きたシステムとして機能するようにしていく必要があります。そのためには、安心して会話ができること、対話には十分な時間をかけ努力し続けることなどの重要性が述べられています。
 また、共有ビジョンを持つために必要な問いも本書には書かれているので、そちらも参考にするとより明確に理解できると思います。木も森も両方見る視点が必要だということがわかります。

5段階の依存状態

 学校における共有ビジョンを確立するためには、今の組織がどの状態になっているかを確認する必要があります。それを5段階に分けて見ることができると書かれていました。それは「命令→売り込み→テスト→相談→共創」です。

 最初の命令段階は、緊急対応などが必要な時は適切な判断ですが、このプロセスばかりになってしまうと、受け手は疑問をはさむことなく命令に依存する組織になると考えられています。行動に移るのは早いかもしれませんが、個人の創意工夫などが含まれないので、ビジョンの実現からは遠のいてしまいます。
 次の売り込み段階については、やるかやらないかは相手が決めることになっており、ビジョンを提供した上で選択ができる状態です。
 3つ目のテスト段階では、用意された選択肢の中から大人数を相手に選ばせる方法です。ただし、この段階においても選択肢には含まれない考えなどが排除されてしまうために、もう少しオープンな質問に移行できるようにしたいと思うようになります。
 4つ目は、相談段階です。リーダー自身が自由回答を求め、メンバーがお互いの意見を交換したりしながらアイデアを持ち寄っていく段階になります。この段階で個々のビジョンが全体に反映されるとより強固なものになっていくと考えられています。
 そして、最後の共創段階では、自分たちで生み出した目標のために働く意思を持つようになります。この段階では、各個人によってビジョンが共有されているので、大きなシステムに貢献ふるという気持ちや、自分は組織のメンバーであるという自覚が持てるので、創造性が高まると考えられています。ただし、この段階に来るまではかなりの時間が必要になるので、時には対立したりしながらもみんなで創り上げる雰囲気が生まれてきます。

メンタル・モデル

 私たち人間は、言葉にせずとも「共有している前提」をもとに行動することができます。しかし、普段言葉にしないからこそ、意識の底に沈んでいるものを検証したり見つめ直すことをせず、つい見逃してしまうことがあります。

 このような、私たちが日頃意識できていない部分に目を向け、そういったことを話し合うプロセスはとても重要だと考えられています。
 思い込みや対立は新しい問題に発展する可能性があるため、自らの思考を客観的に捉えられる必要があるということです。

推論のはしご

 本書では、私たちの思い込みに関して自覚的になるためのワークがいくつも紹介されています。その中でも、この「推論のはしご」を理解することで、自分が信じたいものと事実を無意識に同化していることに気づくことができます。

 相手が自分のことを嫌っているという判断はどこから来たのか、1つの事象をそこまで飛躍させていないかなどを考えることで、自分の思い込みに気づくことができます。

思考のプロセスをたどってみる

 自分の見解を主張することと、他人の見解を探求(発言の背景にある前提も含めて)することにバランスをもたせるためには、練習を積むことが必要だとされています。
 つまり、自分の主張するだけでも、相手の考えを鵜呑みにするだけでも不十分であるということになります。
 このように、お互いフラットに考え話し合える状況で複数の観点が組み合わされ、創造性が高まっていくと考えられています。

 創造的な会話をしたいと思った時に役立つツールとして、「キュー・ライン」「左側の台詞(2段リサーチ法)」などを活用することで、暗黙の前提に気づくことができたり、不必要な対立を回避することができます。より具体的なプロセスについては本書に詳しく書いてあります。

推測で危ない橋を渡る

 私たちは権威のある人が望むことを、自らの推測も混ぜて行ってしまうことがあります。このように、推測によって引き起こされる意図しない結果になってしまう前に、管理職者と教員(権威がある人と一緒に働く人たち)でビジョンを共有するための対話が必要になります。

 また、権威のある立場の人の発言は一人歩きする可能性があるので、教員も含めて自分の言葉には細心の注意を払う必要があるとされています。何かを伝えたいときは、無意識に伝わるメッセージを自覚し、はっきりと伝えることが必要です。
 こちらも具体的な取り組みについては、本書をご覧いただけたらと思います。

チーム学習

 ここでは、チームに属する人と共に考え合同するための方法が書かれています。チームの中に、日頃から考え行動する習慣があることが要とされています。ここでは、仕事への情熱や子どもたちに関する状況を俯瞰し、学校の在るべき姿についての考えを共有していきます。

 チームとして働く場合、メンバーがすべての考えに合意(アグリーメント)する必要はないが、合致(アラインメント)して共に働く必要はあると書かれています。
 つまり、メンバーの個性を維持しつつ、それぞれの努力が共有された方向に向かうことを理想としています。また、考え方に違いがあったとしても全体で話ができることが大切だとされています。

話し合いの場を設ける

 私たちは、当たり前だと思っていることや日頃言葉にしないような前提は意識の奥深くに沈み込んでいます。そういったものに自覚的になることで、多様性を受け入れることができるようになっていきます。
 このような話し合いの場を設ける際には、「招待(当事者に選択肢がある)」→「保留(前提や信念についてよく考察する)」となるよう個人がグループに向かって話すことが必要になると書かれています。なるべく自然な形で会話ができるように、大袈裟な準備は避けるべきで、リラックスが期待できる食事などもここでは避けるべきだと考えられています。

 生徒や教員はそれぞれ生活て異なる側面をもっており、それらの分野ごとに分けてマインドマップを作成することが紹介されていました。生徒であれば、学業や発達の様子、その他社会的ネットワークや家庭など、それぞれの状況を踏まえて考えていくことが重要だとされています。
 そのように、思考の中で複雑に絡み合っているものを紐解きながら、オープンな会話ができるような場面の設定が重要だということがわかります。その例として、「ワールド・カフェ」方式などを取り入れることなどが紹介されていました。

システム思考

 システムという言葉は、ギリシア語の動詞が由来となっており、「一緒に立つことを促す」という意味があるそうです。原因と結果が簡単につながらないということが理解できれば、日常生活の中にあるあらゆるシステムが複雑にできていることに気づくことができます。そのため、複雑化した自分の思考をほどくように、考えていることを言語化しその関係性を見るためのスキルがこの「システム思考」になります。

応急処置ではなく、根本的な解決を

 何か問題が起きた時に、私たちは応急処置的な対応をとりがちです。一時的にはそれが効果を発揮することがあっても、長期的には悪い結果を引き起こすことが多いと考えれています。応急処置的な対応が重なり、根本的な解決ができないまま問題がより複雑化してしまうと、対処ができなくなってしまうぐらい取り返しのつかない状態になってしまいます。

氷山

 私たちは目に見えるものだけで物事を判断してしまうことがあります。何かに対処するときは、見えていないものについても考えるための時間が必要です。本書では、「表面に見えるものは、見えないところにもっと大きな何かがあることを示す症状に過ぎない」という理解のもとで、表面には見えない「変化をもたらす本当のレバレッジ(てこの原理で作用する部分)」を探さなくてはならないとしています。

 根本的な問題にたどりつくためには、容疑者探しのような責任の所在を追求するのではなく、直面する問題の根底的な構造や思考に対して深い思考ができるようにならなければいけません。そのためのエクササイズが本書では紹介されているのんで、その手順(「出来事(現実の説明)」→「パターンと傾向(時系列変化パターングラフ)」→「システム構造(ループ図や構造的モデル)」→「メンタル・モデル(無意識な前提や概念の発見)」)に従ってみると根本的な問題が見えてきます。
 ただし、変化は急にやってくるものではないので、何か問題が起こったときに、その時点の責任者の責任にするのではなく、じっくりとその問題に対して考えを深めることが重要です。そういった変化を理解するには、「ストック・フロー図」が有効です。これらの手法については、本書で詳しく確認していただけたらと思います。

学ぶことを学ぶ際になぜ振り返りが重要なのか

 現在は、「振り返り」という活動がいろんな学習活動の中で行われています。振り返りの重要性について理解し実践できているか、または教員自身が振り返りをしながら仕事をすることができるかで教育的な効果は異なってきます。本書では、行為と振り返り(アクションとリフレクション)の循環の中っで学ぶことで向上ができるとしています。

 このような振り返りを効果的に行うための方法として、「二重ループ学習」が提唱されています。その方法では、学習することを学習するということを身につけます。つまり、自分の状況を「観察」し、前提や結論などを問い直す「再考」、新しい理念について考える「再構成」をすることで、より慎重かつ効率的な思考ができるとされています。これらの概念が重視しているのは、私たちの意識の奥底にある思い込みや価値観などを表面化させて、それをもう一度見つめ直すのに役立ちます。

 このように、普段の生活においても見えていないものがあり、その根本的な問題を見つけ出すのが難しいことがあります。しかし、教育においては複数の人物が関係する組織の中の話であるため、子どもたちにとってよりよい教育を目指すには必要なマインドセットだと感じました。
 相手と対等にかつオープンに話せる場を設定し、そこで自身の見えていない前提や意識などを表面化させることで、新たな創造性を現場にもたらすことができるというのが理解できました。それでは、次回は第3章のポイントと学んだことをまとめていきます。

【参考文献】
ピーター・M・センゲ他著、リヒテルズ直子訳『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』(英治出版、2014)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?