オランダのIB MYPでは「奴隷貿易」をどう学ぶのか?【268】
私が学習サポートをしている生徒はIBの学校に通っています。その学校で学んだことを日本語で解説を加えたり、日本語でのエッセイにまとめる練習をしています。
IBの学習を見ていると、社会科の学習内容は確かに難しいですが、それらを学ぶことで得るものもたくさんあります。具体的には、世の中を見る視野が広がったり、考える力を身につけることができると感じます。
今回はその例の一つとして、「奴隷貿易」の授業について記録しています。
「奴隷貿易」の全体を捉える
大西洋を囲むヨーロッパ大陸、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸間で黒い点が移動しています。これが何かを問いかけるところから、この授業は始まります。
大西洋の奴隷貿易〜三大陸の恐ろしい歴史
「奴隷」とは?用語の定義
奴隷とは、「ある人間が別の人間に所有されている状態であり、奴隷は法律によって所有物と見なされ、自由人が通常保持する権利のほとんどを奪われていた」という定義を確認します。人だけれど、人と同等の扱いは受けられない、現代では禁止されている人権を無視した扱いが昔は行われていたのです。
現代の我々にとって、人間は肌や髪の色に関係なくみんな同じ生き物だという認識が当たり前ですが、奴隷制の本質を理解するためには、当時は全く異なった価値観であったことを知る必要があります。
奴隷船に乗っていた「オラウダ・イクイアーノ」という少年
かつて奴隷船に乗せられ、奴隷として働いた後に自由人としての権利を勝ち取り、その後は奴隷制反対運動に参加したというオラウダ・イクイアーノというかつての少年がいました。
彼はかつて、奴隷船の中で食事ができないくらい衰弱していたのですが、船の乗員である白人の男性に食事を強要された過去があります。彼の自伝に書かれていたこのことや、奴隷船の状況について以下の問いかけがありました。
・なぜ白人はイクイアーノに食事を強要したのか。
・奴隷船の状況から、どんな結論を出すことができるか。
恐怖の中世〜「三角貿易」の構造を学ぶ〜
次は、大陸間のつながりを示した地図を使って三角貿易の構造を見ていきます。
ヨーロッパ→アフリカ(加工品)
アフリカ→南北アメリカ大陸(奴隷)
アメリカ大陸→ヨーロッパ(タバコ、砂糖)
船の積荷を空にすることなく、常に何かを運ぶという効率の良さが分かります。ここで考察の質問が出されます。
この動画を見た上で、「ヨーロッパ・アフリカ・南北アメリカには、それぞれどのような関連があるのか」をまとめるという考察課題がありました。
南北アメリカの植民地
次に、南北アメリカの地図が提示されます。その地図には、ヨーロッパ各国が占領したそれぞれのエリアが分かるように示されています。例えば、ブラジルのあたりはポルトガル、南アメリカの西側はほぼスペイン、北アメリカの東側はイギリスとフランスといったような勢力図のようなものです。
これらを元に、「1750年までのその支配図を見て、現代のつながりを説明する」という活動がありました。
さらに、アフリカから奴隷が動いたルートを示した地図も表示されます。そこからセネガルやシエラレオネ、アンゴラなどのアフリカの西海岸を中心に、多くの奴隷が運ばれたことを確認します。
コロンビアの交換
大西洋三角貿易によって、元々その大陸にはなかったものがお互いに新しく運び込まれました。それらによってもたらされた、その後のあらゆる影響についてまとめていきます。それぞれに良かった点と悪かった点としてまとめられています。
新世界から旧世界へ
とうもろこし・じゃがいも・豆、落花生、かぼちゃ、パパイヤ、アボカド、パイナップル、トマト、唐辛子、いちご、カカオ豆
米や小麦を栽培するのが難しい土地でも栽培できるものが増えたことから、アメリカ大陸から持ち帰ったものがヨーロッパに新しい恵みをもたらしたのです。
旧世界から新世界へ
はしか、天然痘、インフルエンザ
ヨーロッパにあった病原菌が、アフリカを経由してアメリカに渡りました。そのことで、免疫を持たない多くの人間や動物の命が奪われました。
さらに、アフリカから総勢1050万人の奴隷がアメリカに運び込まれました。これは後のアメリカの歴史に大きな影響を与えます。また、アフリカ西海岸から多くの奴隷が運ばれたことで、その後のアフリカ経済が現代に影響していることも考えることができます。
これは、「私たちは歴史を学ぶことで、今の世界の成り立ちを学ぶことができる」という、歴史を学ぶ意義を示していると思います。
タバコ、米、コーヒーと砂糖の生産
奴隷を用いたプランテーション農業によって、ヨーロッパで必要とされる製品が作られました。また、これによって砂糖がメキシコやペルーに広まったことも示されています。
バナナ
かつて東南アジアで栽培されていたバナナも、16世紀にカリブ海へ持ち込まれたことで、アメリカで取れるようになりました。こちらの気候に合っていたのです。
このテーマについての最後には、上の動画を見て、「コロンビアの交換」による恩恵や副産物などについての意見をまとめていました。
まとめ
授業の最後には、大西洋奴隷貿易、三角貿易についての全体のまとめが課題になっていました。
与えられた条件は、「関与した国、良い結果、悪い結果、新世界、旧世界」という用語を入れるということで、この授業での全体像をつかむためのまとめとなっていました。
私がこの授業でも気づいたことが、生徒に求められるのは、知識の定着ではなく「知識をどう使うか」ということがよく示されているということです。授業の中で、だいたいまとまりがあるところには、学んだことをどのように理解したのかを説明する活動があります。
そういった知識の活用を通じて表現力を磨き、やがては国際社会の中で人同士、国同士が良好な関係を築く一翼となっていくのだと思っています。
またこれからもIBでの学習の魅力について記録していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
<参考HP>
ラテンアメリカ協会、山本紀夫『コロンブスの不平等交換ー作物・奴隷・疫病の世界史』
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