見出し画像

「作文課題」対話で思考を掘り下げる - 中学生の日本語授業①【Aflevering.20】

 私が日本語教室で現在取り組んでいる活動について、今回は特に中学生のサポートについて記録しておきたいと思います。小学校中学年から高学年にかけて、抽象的な思考が少しずつできるようになってきます。さらに中学生になれば、言語活動の場が「日常生活」から「社会生活」に広がっていきます(「学習指導要領」を参照)。つまり、それは「自分の意見と他者の意見の違いを少しずつ比較して考えられるようになってくる」ことだと考えています。

 中学生の授業へのこだわりとして、いろんなテーマに触れながら自分のこれまでの経験を振り返ってもらったり、こちらが提示する様々なデータについて分析しそれを共有することによって「複眼的思考力」を身に付けられるようにしています。

 ただし、中学生の場合は自分が考えたことが正確に伝わっているかどうかを確認することも重要(高校生も同様に)なので、「正確な読解や基本的な文章表現、文法などを学ぶ時間」と「自由に考えて言語活動を活発にする時間」を分けて設定しています。ここでは「言語活動」による思考の深掘りについて述べたいと思います。

 本題に入る前に、簡単な自己紹介をさせていただきます。私は現在、オランダで小学生から高校生までの日本語学習のサポートをしております。サポートの内容は児童・生徒によって異なります。「日本語で家族や親戚、友達と年齢相応な会話ができるようにしてほしい」という要望から、「日本の学校に戻るため準備」や「IBDP(これは高校生の年齢です)の日本語学習」などのサポートの要望をお受けしております。ことばのレベルは、年齢によって異なるだけでなく、ご家庭の言語環境や学校での学習言語、海外生活の長さなどによって異なります。そのため、子ども達一人ひとりと対話を重ね、それぞれに合ったサポートを心がけつつ、さらに「日本語での子ども同士のつながり」を作ることを大切にしています。

思考をアウトプットする機会を設ける

 先週の中学生の学習テーマは「主観と客観を意識的に分ける」でした。そのために、日本の高等学校の入試問題を用いて「作文課題」と「資料の読み取り問題」に取り組んでもらいます。そして、作文で考えたことや資料から分析したことを、授業の中で発表してもらいます。さらに具体的な活動について、この記事では「作文課題」について述べたいと思います。

「作文課題」で自分の表現を振り返る

 「作文課題」では、文章の日本語表現に関するところや誤字脱字のチェックとは別に、生徒が考えたことと実際に文章に書いた内容が一致しているかを確認します。今週の作文課題は「努力が報われるということに対して賛成か反対か」でした。賛成か反対かについては本人の文章内容によりますが、このような曖昧な問いかけに対しては、自分の経験などをうまく活用しながら、特定の状況を設定し具体化してから述べていく方が、書き手の思いが伝わりやすいと思います。さらに、そこから自分の考えを展開して、最後にまとめるように構成してもらいます。

 授業が始まる前に、生徒から提出してもらった作文を予め読んでおき、表現が曖昧なところと誤字脱字についてチェックしておきます。そして授業では、作文課題を確認する時間の初めに生徒がテーマについて考えたことやどんな内容を書こうと思ったのかについて簡単にまとめて話してもらいます。そういった「要約」も兼ねた活動をすることによって、生徒の中の思考がクリアになり、何が言いたかったのかについて自分で再確認することができます。その後、生徒が書いた文章について読み手が理解できたこととすり合わせて、生徒が伝えたいと思ったこととズレているところを修正していきます。そして、ようやく最後にこちらから文章全体に対する細かいコメントをしていきます。このように、なるべく自分で気づけるように誘導していくことで、高校入試の際にも自ら論点がずれているところに自ら気づいて修正したり、正確な文章表現ができるようになっていきます。

 また、今回の授業で特に話し合いの中心になったのは、努力が仮に報われなかった時に、その努力は無駄になるのかということでした。生徒にとってみれば、何かの目標があってそれに向かって努力をしたにも関わらず、それが達成できなかった場合、「それは努力したとは言えず、その努力は意味がなかった」と考えているようでした。そこで私は、目標が達成できなかった時のことを一緒に具体化して考えてみることにしました。例えば、英語の資格試験に合格するためにリスニングやスピーキングなどを頑張って練習したとします。仮に試験に合格できなかった場合でも、試験に合格するためにした勉強が、日常の英会話のコミュニケーションに役立ったり、英語でニュースを聞いた時に前よりも分かるようになることもあるのではないか、という場合についてどう考えるのかを提示してみました。つまり努力は無駄にはならないのではないかという考えです。それについては納得できるようでした。

 さらに生徒の考えを掘り下げていくと、「もし目標が達成できなかった時に、それまでの努力の仕方に改善点がないかを考えた方が良い」や、「目標までの道のりを細かく分けて、スモールステップで自分の達成度を確認しながら細かく努力の内容を修正するのが大切だ」という意見も出すことができました。興味深いことに、学習者1人では思いつかなかったことも、他者との対話の中で考えが深まり新たな発見があるのです。作文のテーマからズレないように全体の構成には気を配らなければなりませんが、「努力」についていろんな見方をしたことによって、この考えを面接や別の作文課題など他の場面でも活用することができます。また、自分の勉強に対して、成果が実らなければ全て無駄だという無意識のプレッシャーからも解放されたようでした。全ての努力が結果に結びつくわけではないので、その生徒がこれから生きる長い人生の中で、努力がうまく結果に結びつかなくて落ち込みそうな時、今回の授業のことを思い出してくれたらと思います。

学習者の中にある答えを一緒に探す

 今回の中学生の作文では、高校生の小論文と同じアプローチをするのですが、「自分の考えを書く」活動に関しては、生徒の中にある答えを一緒に探しその表現が的確であったどうかをフィードバックすることを最も大切にしています。ただ、高校生の小論文に関しては、意見や考察に加えて客観的な事実なども盛り込む必要があります。そのため、少し難易度は高くなりますが、いずれも「自分独自の視点」を持つことが重要になります。また、作文で考えたことや表現したことについては、その課題の中でしか使えないのではなく、出願する時の「自己申告書」や「面接」などにも活かせます。作文や面接の練習などを通して自分の思考をクリアにしていき、自分を客観視するトレーニングを積むことによって、自分の生き方も見えてくるのかも知れません。

 あくまでも私が理想とする指導のあり方は、学習者本人が自分の意思を明確にして進むべき道を決められるように「傾聴」し、進み出したらそれを常に学習者と一緒に「振り返り」ながら目標達成に向けて「一緒に走る」という方法です。これによって、生徒たちが自分の考えと改めて向き合い、さらに表現力を磨くことで、深い思考力と他者とのコミュニケーション力も高めることができるようになります。それがやがて「自立した学習者」の育成へとつながっていくと信じています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!