生徒への指導は「加点法」で行う【Aflevering.131】
生徒たちは進路を決める準備段階になってくると、これからのことを真剣に考えなければならなくなります。これまで過ごしてきた学校から、次のステップを決める時がやってきます。
受験に対しての準備というのはプレッシャーもかかってきます。また、受験に対する不安で勉強が手につかなくなるという生徒もこれまでに見てきました。
私が学習をサポートする立場として心がけていることは、不安を具体化して行動への原動力に変える言葉がけをすることです。
今日は、私が生徒へ声かけをする時に、「今その生徒ができていること」を言葉にして伝える重要性について記録しておきたいと思います。
現状を把握するために
授業の時に、生徒が学習に対して不安を感じていそうだったり、何か話したそうな様子の時は、何気なく話をふることにしています。
特に海外在住の生徒で、受験が迫ってくるとその不安を共有できる友達が少ないことから、自ら話を切り出してくれることもあります。まずは、その不安に感じていることを言葉にしてもらい、自分が今何に不安を抱いているのかをはっきりとさせます。
不安な時は、自分のできていないところばかりが目につきやすくなります。特に10代の子どもたちの場合は、自分がどういった人間なのかという「アイデンティティ」を形成する過程でもあるので、他の人と比べて自分のできないところばかりに目がいってしまい、自分を低く評価してしまいがちです。
今日授業をさせてもらった生徒は、これからの進路に向けてのスタートを切るにあたって、自分の勉強法に不安を抱いているようでした。
受験のためにまずは資格試験に合格したいと思っているけれど、その勉強法がなかなか馴染まなくて順調に進んでいないという状況です。
しかし、話を聞いているうちに、勉強方法についての不安というよりは「このまま資格勉強を始めてうまくいかなかったらどうしよう、そもそもこれが受かっても本当に自分が行きたい進路に進むことができるのか」という不安の方が強いような気がしました。
そこで、そもそもこの勉強をなぜしようと思っているのかについて、もう一度生徒と一緒に「今の立ち位置」を確認することにしました。
今自分ができていること
勉強方法についての話は一旦置いて、これまでの学習状況について整理することにしました。
自分が目指している進路について、どんなカリキュラムを学びたいのか、なぜその資格試験を受けようと思ったのかなどについて一緒に思い出すことにしました。そして目標をもう一度明確にして、何のために今これをやろうと思っているのかということを改めて考えてもらいました。
また、これまでの授業での取り組みについても振り返ってみました。1日ずつで見てみると、自分の成長というのはなかなか実感できません。しかし、数ヶ月単位という少し長いスパンで見てみるとこれまでの成長を改めて感じることができました。
私が授業を担当するようになってから約半年の間に、少し曖昧だったこれから目指すべき進路が具体的になり、また勉強面・精神面においても表現力が豊かになっていることが明らかになりました。これまでの提出された課題を見てみると明らかに過去の自分と今の自分が違うということがわかります。それによって小さな努力を続けることの大切さを再確認することができました。
自分の成長を感じるのは嬉しいことです。自分の成長を言葉にしてもらい、それを見守ってくれる人がいることで子どもたちはもっと頑張ろうという気持ちを抱くことができます。講師の役割というのは、何かを教えることだけでなく生徒の学習に対するモチベーションの管理も怠ってはいけないと考えています。
すると、生徒は不安が少し晴れたように、「また来週の授業で、先生にどこまでできるようになったか報告しますね。」と言ってくれました。
そして、私も「報告は楽しみにしているけれど、もしこの1週間でうまく行動に移せなかったとしたら、また一緒にどうしたら前に進めるのかを一緒に考えよう!」と伝え、授業は終了しました。
私がオランダに来てから強く感じることは、減点法ではなく、加点法で生きる方が幸せだということです。つまり、人生は「できないこと」に注目するよりも、「できること」に目をやる方が幸せに生きられるということです。
日本の学校では、どうしてもできないところに目が行きがちでした。子どもたちがより成長できることを期待して、「ここができていない。」「もうちょっと頑張れたのに。」という大人からの言葉で、子どもたちは自分ができていないところに目を向けてしまうようになっていきます。
もちろん、苦手なことや難しいことを放ったらかしにすることはできません。私も成長するために必要な課題は伝えることにしていますが、まずはできたところを言葉にして伝えてあげたいと思っています。そして、なるべく自分の課題は自分で気づけるように、振り返る機会をしっかりと設けています。そうすると、次第に子どもが自分の行動に責任を持てるようになり、自分からも学習方法やこれからの方針などを提案してくれるようになります。つまり、自立に向けた行動を取るようになっていくのです。
少なくとも自分に自信が持てるところが分かっていれば、苦手なことにもチャレンジする気持ちが持てるのではないでしょうか。このような考え方を、これまで私が関わってきた生徒たちにも伝えてきました。
生徒の中に「答え」はある
私がこれまで高校現場や学習塾で何か相談を受けた時、大抵は生徒の中で答えが決まっている場合がほとんどでした。時には、生徒自身が本当にどうして良いのか分からなくて困っている状態の時もあります。また、分かっていてもなかなか前に進めない時もあります。悩むこと自体は、大人になるための心の成長過程でもあるので、良いことだと思います。
私はそういった相談を受けた時は、とにかく生徒が思っていることをたくさん話してもらって、自分なりに答えにたどり着けるようにサポートするようにしています。
そして、不安の中で行動に出るために必要なのは「自信」だと思っています。
私が生徒に言葉をかける時は、これまで共に過ごしてきた時間の中で、「できるようになったこと」を思い出して話したり、かつて「苦労した課題を何とか乗り越えた」話をしたり、一生懸命行動していれば何かが見えてくることを伝えています。
やらなくてはいけないことが分かっている生徒の場合は、このようにして「自分ならできる」と思えるような言葉がけをしています。
そのためには、日頃から生徒をよく観察して、たくさん対話をしておくことが大切です。
嘘偽りや過大評価で励ますのではなく、今まで見てきた生徒の成長をそのまま伝えて、自分がこれまでに頑張ってきた軌跡をきちんと思い出すことができれば、受験などの不安があっても前に進む勇気が湧くと思っています。
先生や生徒によって指導方法は千差万別
教育は人と人の間で行われるものなので、指導法に「絶対」というのはあり得ないと思っています。他人の方法を参考にすることは大切ですが、「このやり方が絶対だ」と思うことは、目の前の子どもたちをありのままに受け入れられなくなる危険性があるので注意が必要です。
むしろ、絶対がないからこそ私たちはチャレンジする価値があるのではないでしょうか。
だからこそ、私は自分にできることを精一杯やりたいと思っています。勉強や将来に不安を抱いている生徒たちに対して、自分を見つめ直すための機会を提供していきたいです。