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「日本語教室」の子どもたちの成長記録〜2021年Eduble日本語教室の振り返り①【Aflevering.169】

 私が日本語講師として活動をさせていただいた、Eduble日本語教室の2021年を振り返りたいと思います。今年は、新たにいろんな方面からのご支援をいただきながら日本語教室の活動ができました。
 こちらのnoteにおいても、数名のフォロワーの方よりサポートをいただきました。サポートとしていただいたものは子どもたちの日本語活動のために使わせていただきました。この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。

 Edubleの日本語教室は2019年にスタートし、2020年7月から私も授業を開始しました。2020年は開設1年目で生徒数も極少数ということだったので、個別指導を中心に子どもたち学びをサポートしてまいりました。

 2021年は新たに10人の子どもたちが加わり、授業のあり方も変化しつつあります。個別の学習を大切にしつつ、子ども同士の関わりを増やし、協同学習の要素も取り入れてきました。そこで、今回はいくつかの記事に分けて今年の振り返りを行い、来年へ向けての糧にしたいと思います。そして今回は、「2021年の子どもたちの成長」について振り返ります。

Eduble日本語教室の子どもたちの成長

 Edubleの日本語学習は、講師が一方的に与えるものではなく、講師と子どもが一緒に作り上げていくものだと考えています。特に、日本語教室は学校ではないので、「何かを与えられる場所」ではなく、「自分の成長を感じられる場所、日本語を話す自分の居場所」であってほしいと願っています。そのためには、講師側としては「子どもたちが自ら学習に向かう姿勢」をどのようにして形成していくのかが重要になります。

 日本語能力が伸びるかどうかは、子ども自身の心の成長やタイミングにもよります。そのため、日本語力を伸ばすことを目標にするのではなく、日本語を学びたいと思ったときに自分で学べるための準備を一緒にするという考えの元でサポートしています。つまり、子どもたちの学習に対する態度を養うことに重きを置くということです。週に1回の授業でできることは限られており、日本語の力を伸ばすことにばかり目を向けてしまうと子どもも大人も疲れてしまいます。

 次からは、この1年で成長が見られた子どもたちの例をいくつか記録しておきたいと思います。現在日本語教室に通う子どもたちは、いずれも家庭言語は日本語です。


①「文章にまとまりが出てきた」Aさん

 日本での生活がほとんどないAさんは、8歳から日本語教室に通い始めました。最初はひらがなを書くのもあやふやな感じで、日本語を話すことはできるけれど、自分の考えを文字にするのはできなかったのです。そのため、Aさんは自分が年齢相応に日本語ができないことに劣等感を感じている子でした。

 しかし、Aさんには「日本語を学びたい!」という意志ははっきりしていました。それからはこちらで用意したカリキュラムに合わせて、ひらがなやカタカナの確認からスタートしたのです。Aさんは、1からやり直すことにも積極的に取り組み、今は1年生の教科書や1年生レベルの読みものは全て読むことができるようになりました。現在は、2年生後半のカリキュラムに入り、新しい漢字や語彙に惑いながらも毎回熱心に勉強してくれています。Aさんの学習を支えているのは、自身が「日本語ができるようになりたい」という思いです。私の役割というのは、Aさんの学習が充実するようにサポートすることです。

 これはAさんの成長を具体的に感じた話です。
12月の授業で、2年生の国語の教科書「お手紙」を読んだ後に感想文を書いてもらいました。約1年前は、文と文のつながりが支離滅裂な感じだったのが、前後の文章につながりが生まれ、全体としてのまとまりが見えつつあるようになりました。私が子どもたちの書いたものを添削する時は、あまり細かくは行わず、たくさん修正が必要であったとしても多くて3つぐらいにしています。それよりも、その時よかったことを伝えるように心がけてきました。
 子どもたちは、学校や家庭などの日常生活で常に成長しています。「子どもの成長を信じる」という観点で、日本語の成長を見守ることも大切だということを学びました。


②「日本語嫌いから一変、読書を始めた」Bさん

 Bさんは日本での生活経験はほとんどなく、家庭で使用する言語は日本語です。文章を読むことが苦手なBさんは、日本語の文章を見るだけでも「嫌だ!」という反応を示していました。そのため、初めにBさんと一緒に「自分で学習ができるようにどのような目標を設定したら良いのか」について話し合うことにしました。
 11歳でEdubleの日本語学習を始めたBさんには、将来の夢がありました。その夢を叶えるためには、いずれ日本語の力も必要になるということがわかっていました。それをさらに深く考えてもらい、これから始める日本語の学習が自分が叶えたい夢とつながるということが理解できるようになってからは、少しずつ学習に対する態度も変化したのです。

 それからの授業でも、度々「あ〜もうやりたくない!」と言う瞬間がやってきます。しかし、私にとってみれば、学校から帰ってきてプラスとして日本語の学習をしなければならないので、大変だと感じるのは当然だと思っています。そのため、まずはそれが大変だという共感を示した後に、「勉強は自分のためにするもので、先生はそのお手伝いに来てるだけだから、先生は無理やりやりなさいとは言わないからね。しんどい時は、しんどい!って言っていいからしんどいなりにできることをやろうね。」と伝えるようにしてきました。

 1月から始めた日本語学習のペースに慣れてきたのか、少しずつ学習にも気持ちが向くようになり、授業以外でも読書ができるようになりました。読めないところは、保護者の人に協力してもらいながら進めているようです。そして、授業の中でも変化が現れました。これまでほとんど読めなかった3年生の教科書の文章が、少しずつ読めるようになってきたのです。今は本人のペースで頑張って読み進めています。いつも授業の初めに、Bさんが話してくれる学校やお家での出来事(日本語のアウトプットとして活用)を聞くのがとても楽しみです。

③自分の成長の喜びを知り、音読に貪欲になったCさん

 Cさんは小学校に通う前から日本語教室に来てくれていて、ひらがなの読み書きからスタートしました。ひらがなやカタカナの学習の時は、読んだり書いたりするのを嫌がることも多々あったのですが、学習に一区切りがつき、1年生の教科書に入る前に、Cさんがこれまでに頑張ってきた成果を明確に示してあげるととても喜んでくれました。
 それからは、授業が終わり家に帰ると、今日の授業でできるようになったことを誇らしげに保護者の方に伝える時があるそうです。また、日本語の授業で一緒に勉強する友達が増えたこともあり、苦手な音読も積極的にするようになりました。
 Cさんはあまり音読が上手な方ではないのですが、他の子が流暢に読んでいたとしても、決して消極的にならず自ら「次のところ読みたい!!」という意思表示をしてくれます。そんなCさんも、もうすぐ1年生の漢字の読みを一通りマスターし、教科書の音読も全て終わりそうです。

 絵本の朗読課題などに取り組むとき、Cさんは「全部読む!」と言って積極的な姿勢を見せてくれます。しかし、読むのがあまり得意でないCさんにとって、その課題を終えるのにとても時間がかかってしまいます。しかし、それを終えた後はとても充実した表情を見せてくれます。また、他の子たちからも「すごい頑張ってたね!」という声をもらったりしています。これこそが子どもに必要な学習なのではないかと考えています。

それぞれ週に1回しかない授業ですが、子どもたちのことを書き出すと止まらなくなりそうです。

日本語講師としてできること

 以上に紹介した子どもたちの他にも、素晴らしい変化や成長を見せてくれている子たちはたくさんいます。
 その中での私の役割というのは、一人では難しいとされる「海外での日本語の学習」を見守り、子どもが自分の成長を感じてもらうこと、そして必要な時は適切なサポートするだけだと考えています。そのため、子どもたちは「自らの意志で学んでいる」という気持ちをいつも持ってくれていることと思います。

 当然ですが、中には学習が嫌いな子もいます。学習自体が嫌いであったとしても、教室で会う友達と日本語で会話することが楽しくて、それを支えに勉強を頑張る子もいます。学習そのものを楽しいと思ってもらえるよう、講師としてこれからもいろんなアプローチをしていく必要があります。

一人ひとりが自分らしさを持てる空間づくり

 教室に来てくれる子どもたちを見ていると、一人ひとりの性格や好み、得意不得意などが十人十色です。それを「大人の勝手な物差し」で子どもを見ようとすると、その子自身が持っている良いところに気づきにくくなるように感じています。もちろん大人から見た評価が必要な場合もあります。

そのため、私が日本語の授業をする上では、子どもたちを点数で判断することはほとんどありません。日本語の能力を確認するためには、点数を出すテストをするのではなく、音読や会話、作文など4つの技能に分けて総合的に判断します。つまり、子どもたちの学習を見るときは、大人が用意した評価軸で点数をつけるのではなく、子どもたちそれぞれの「何が理解できて、何が理解できなかったか、そして次にどう繋げるのか」を考えるようにしています。

 日本語の能力に優劣はなく、みんなできるところとできないところがバラバラです。だからこそ、みんなが助け合うことが大切だと子どもたちには伝えています。きっと学校でも同じように学んでいると思います。

来年も子どもたちの成長を見守るのが楽しみです。

次回は、今年に行った授業の構成や教材についてまとめておきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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