「日本語A:文学」基本情報③学習を始める前の基本ルール[222]
(2024.09更新)今回の記事では、これから「日本語A :文学」を学びを始める前に、具体的に必要になってくる情報についてまとめておきます。これまでは、「日本語A:文学」の学習に関する概念が中心になっていましたが、ここからは具体的なシステムについて書かせていただきました。授業者にも役立つ情報は入っておりますのでご活用ください。
"SL"と"HL"の違い
そもそもIBDPでは、6科目のうち3〜4科目を上級レベル(Higher Level)とその他の科目を標準レベル(Standard Level)として学びます。日本語AもSLとHLのどちらを選択するかで、学習時間や最終試験の内容が異なってきます。初めにその違いについて、3つの観点からまとめておきます。
「授業時間数」
SL:150時間 HL:240時間
3つの探究領域について扱う時間数がそれぞれ違います。3つの探究領域である「読者、作者、テクスト」「時間と空間」「テクスト間相互関連性:テクストをつなげる」について、授業をする側は、SLでは50時間ずつ、HLでは80時間ずつそれぞれ扱うように構成しなくてはなりません。実際のところテクストの学習では領域間で重複することが多々あります。
「学習する作品」
SL:9作品(SSSTは7作品)、HL:13作品
※ 作品の内訳詳細については下記「コースの設定方法」を参照してください。
「外部試験」
・試験問題1(設問つき文学分析)
初めて読む文学作品の抜粋や文学テクストについて、設問に応じて分析を行う試験です。
→SLは2つの選択肢から1つ、HLは2つの設問とも分析します。
・HL小論文(HLのみ)
学習した文学テクストか作品に関連した探究の道筋に取り組んだもの
を使い、設問に従って2400字から3000字の小論文を書きます。
※「最終試験」については「日本語A:文学」基本情報④【評価】(現在作成中)の記事に詳細を掲載しています。
コースの設定方法(授業をする側)
SLは「9作品(SSSTは7作品)」
・PRL(指定作品リスト)にある作家の翻訳作品(最低3作品、SSSTは2作品)
・PRLの作家で、学習する言語で原作が書かれている作品(最低4作品、SSSTは3作品)
・自由選択作品(2作品)→ PRL、翻訳などは問いません。
※選択する作品について、以下の注意事項があります。
それぞれの探究領域で最低2つの作品を選ぶこと、3つの文学形式、3つの時代、最低2つの大陸に存在する4つの国または地域(SSSTは3つの国または地域)を取り扱うこと。
HLは「13作品」
・PRL(指定作品リスト)にある作家の翻訳作品(最低4作品)
・PRLの作家で、学習する言語で原作が書かれている作品(最低5作品)
・自由選択作品(4作品)→ PRL、翻訳などは問いません。
※選択する作品について、以下の注意事項があります。
それぞれの探究領域で最低3つの作品を選ぶこと、4つの文学形式、3つの時代、最低2つの大陸に存在する4つの国または地域を取り扱うこと
コースで学ぶ作品を設定する時は、これらの複数の条件に合うような作品の選定をしなければなりません。
学校のサポートの下で行われる自己学習(SSST)の履修生
言語Aは学習者の母語で学ぶことになっていますが、日本語Aを担当する先生が学校や地域にいない場合は、SSST (School supported self-taught、いわゆるセルフトート)と呼ばれ、学習者が自分の学習を管理しながら学習を進めることになります。ここでは、SSSTの生徒にのみ適用される決まりについてまとめておきます。
・すべての学習作品は、PRLから選択された作家によって書かれたものでなければなりません(自分で作品を選ばなければなりません)。
・「個人口述」については15分の口述時間となり、質疑応答の時間も口述の時間に充てられます。
・SSSTの履修生には、第一言語かつ最適言語を話すチューターを割り当てなければなりません(学校側に求められること)。
・SSST履修生を対象とした特別授業を設定し、学校の時間割の中で実施しなければなりません(学校側に求められること)。
※SSSTの生徒は日本語Aは「文学」しか選択できません。
学習を進める時の注意点
可能な限りさまざまな文学形式、場所、時間、ヴォイス(作者の個性を表す特有のスタイル)になるように作品選択が求められます。それは最終試験の時に、作品分析を深く行い、テクストの関連性の分析も求められます。そのため、作品の選択には、生徒をできる限り関わらせることも重要だとされています。特に、個人口述や試験問題2に活用できるよう、作品同士の接点について詳細を理解することが求められます。
また、コースのねらい、シラバス要件、評価要素、評価規準についての情報を早い段階で生徒が理解できていると学習が進めやすいです。それによって、評価要素に使用する作品の選択を慎重に行うことができます。
そして、評価要素に対する自身の計画を立て実行するように促します。読んだ作品の分析を最終試験で行う時は、同一の作品が2つの異なる評価要素に使われることがないように注意し、学問的誠実性を守る必要があります。
SSST履修生のためのコース設定の注意事項
学校に日本語Aの授業をしてくれる先生がいる学習者に比べ、SSSTの生徒は自分でIBのルールに合わせていろいろと決めなければなりません。また、過去にチューターが見つからないまま最終試験を迎えてしまった生徒もいると聞きました。自分で日本語Aのことを決めていかなくてはいけない時、気を付けなければならないことをまとめました。
「文学形式」
PRLには戯曲(drama)、詩(poetry)、散文:フィクション(prose:fiction)、散文:ノンフィクション(prose:non-fiction)とあります。
「言語A」のコースでの作品の定義
a. 小説、自伝、または伝記などの単一の長編文学テクスト1編
b. 中編小説などの短めの文学テクストで2編以上
c. 5~10編の短編小説
d. 5~8編のエッセイ
e. 10~15通の手紙
f. 長編詩の主要部分または全体(少なくとも600行)もしくは、15~20編の短い詩
短い文学テクスト群(b、c、d、e、f の場合)が作品としてみなされるためには、同じ作家によって書かれたものでなければなりません。
"文学テクスト群は、1 人の作家によって書かれた十分な量でなければならず、その作家の執筆の特徴を認識できる程度まで深く探究することができる場合に「作品」となる"とされています。
「PRLの作家の選び方」
コースで設定された条件に合うように選ばなければなりませんが、PRLには推奨される作家が6人ずつ紹介されているのでそれも参考にすることができます。
「同一の作家の選択不可」
同一の作家について2度学習することはできません。さらに「言語A:文学」のコースに限らず、「言語と文学」の別のコースの一部としてすでに学習している作家や、「言語B」のコースの一部としてすでに学習している作家とも重複することは不可能とされています。また、EEを書く時は、コース内で学習した作家の別の作品であれば可能です。
以上が、学習を始める際に注意する点です。IBの学習はとても難しいですが、その概念を理解し取り組むことができれば、きっと社会を支える力をつけることができます。この情報が学習者にとって学びを充実させる助けになればと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考資料>
・文部科学省IBDP教育推進コンソーシアム「DP(ディプロマ・プログラム)」
・IBO「国際バカロレア(IB) ディプロマプログラム(DP)科目概要」
・IBO『「日本語A:文学」指導の手引き2021年試験』