自由律俳句(と散文)2
さるかに合戦のうすみたいな存在
ここにもさざれ石の由来の岩
サーキュレーターにきな粉がやられた
有為にも無為にもなれず夕暮れ土手を歩く
なるべく水面と並行に投げるのがコツ
記憶はないが擦り剥いている
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先輩とお酒を飲んだ。学生時代から尊敬している人で、自分から誘って飲みに行くのは初めてだったけれど、以前勧めてもらった漫画の感想を伝えたり、好きな映画の話をすることができてとても楽しかった。途中から先輩の彼女も合流し、三人でカラオケに行くことになった。僕はこういう時に積極的に場を盛り上げられるタイプではないので楽しめるか少し不安だったが、すでに全員酩酊していたので杞憂だった。
数曲歌った後、「200x年名曲メドレー」のようなメドレー形式の曲を一人ずつ順番に歌うという遊びが始まった。歌えなかったら罰として焼酎をストレートで飲む、というルールが途中から追加された。 あまり褒められた遊びではないし、信頼出来ない人だったらこういうノリは断っていたかもしれないが、二人の人柄を知っているので安心できた。
先輩はミスチルと全く関係ない曲を桜井さん風に全力で歌い上げたり、透き通った女性ボーカルの曲をブルースマンのような嗄れ声で歌ったりしていた。普段から面白い人なのだが、僕はいつにも増して笑い転げていた。先輩の彼女は知らない曲をさも知っているかのように歌うのがとても上手くて、それにも僕は笑いが止められなかった。負けないように僕も知らない曲を全力で歌った。
当時のCMソングなど、何となく覚えているけど歌えるほどではない、という絶妙なラインの曲がやってくると場はとても盛り上がった。誰もが知っている名曲が流れると順番関係無く全員で歌った。先輩と彼女が一つのマイクでサザンオールスターズを歌っている姿がとても良かった。最終的に三人で「青春アミーゴ」を熱唱していた辺りまでは記憶が残っている。
翌朝、最悪の気分で目が覚めた。胃がむかついて絶望的なまでに気持ち悪い。ベッドの上には吐瀉物が広がっていた。飲み屋からカラオケへ向かう途中、コンビニに寄って食べた「ぶぶかの油そば」がそのままの状態でぶちまけられていて、「いや、まんま出とるやん」と少し笑ってしまった。
靄がかった頭で何とかスマホを開いて、先輩に「すみません、昨日後半から記憶が無くて。迷惑かけてたら申し訳ないです」とメッセージを送った。「全然大丈夫やで!怪我なかった?」と返信がきた。自分は一体どんな状態で帰ってきたのだろうか、と笑いつつ少し怖くなった。幸い怪我はなかったけれど、鎖骨の辺りに身に覚えのない擦り傷があって少し痛む。どうやら帰り道どこかでこけたらしい。
結局この日は何もできず、丸一日泥水のような気分で過ごした。
スマホの中に撮った覚えのないカラオケ中の写真や動画が残っていたのでまとめて先輩に送ると、「じごく」という短いメッセージが返ってきた。二度と酒は飲みたくない気分だったけれど、また飲みに誘ってみようと思った。
ただし、くれぐれも飲み過ぎには気をつけよう。浴室で独り、自分の吐瀉物の付いたベッドシーツを洗う様はこの上なく惨めで見れたものではない。
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