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柊の花が咲き
柊に花が咲いた。白く、小さな花。
最初は全く気付かなかった。
仕事から帰ると、暗闇からほのかな甘い香り。
(あれっ、金木犀かしらん)
と周りを見ても、家には金木犀はないし、近所にもない。大体、開花時期がひとつきかふたつき、ずれてるような気がする。
よく見ると、庭の片隅にある柊の老木に、その苔むした幹にはあんまり似合わないような可憐な白い花が咲いていた。
そこから、確かに香る。金木犀よりは少し自己主張の弱い、微かな香りだけど、まちがいなかった。
この土地を買ったのが10年前。そのときすでにあった木だが、柊ってその痛そうな葉っぱくらいしか印象がないので、そこにあるのもあんまり意識してなかった。
6年前に、もともとあった平屋を壊して、ログハウスを建てた。この柊も、別の場所にあったが、家を建てる際に庭も大改造したので、そのタイミングで移植した。庭の改造も移植も自分でやった素人仕事だったからか、移植がうまくいかず、結局ダメになった木も何本かあった。生き残っているこの柊はずいぶん強い。でも自己主張せず、結局、道路との隙間に、控えめに植わっている。
今までも花が咲いていたのだろうか。まったく記憶にない。こんな香りなのも今まで知らなかったんだから、咲いてたとしても気が付かなかったんだろう。生活の変化も関係あるのかな。いわゆる子育て時期もひと段落、と言えば言えないこともないし、最近、これからの自分自身の行く先についてもよく考えるようになった。そんな自分の変化も関係あるのかもしれない。
不思議なのは、あわただしい朝には今でもこの香りに気付けない、ということ。夜、暗くなると「あ、」と気づく。
視覚が弱くなると嗅覚が鋭くなるのか、それともこの花が夜になると芳しくなるのか。
夜、明かりも少なく、山に挟まれた静かな土地に、ぽつんと立つ自分を意識する。
ほのかに甘い香りを吸い込むと、切ない、でも清涼ですがすがしい、胸が締め付けられる気持ちになる。
遠くに鹿の声がする。
自分が求める美しい世界がここにある。