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ふたりのロッテ
『エーミールと探偵たち』に続いて、ケストナーの作品を読みました。こちらの主人公は、ふたりの女の子。父がいないロッテと、母がいないルイーゼ。9歳の夏休みに、湖のほとりにある子どもの宿泊施設で、ふたりは出会います。
ひとりはおとなしくて優等生、ひとりはおてんばでいたずら好き。性格は反対だけど、なぜかふたりは、うりふたつ。
実は、ふたりは、物心がつく前に離ればなれになった、ふたごだったのです。でも、自分にふたごの姉妹がいることは、触れられることなくずっと閉ざされていた。偶然の出会いで子どもたちはその秘密に気づき、そこから大冒険が始まります。大人の都合で、子どもの人生を制限する。それでいいのかと、痛烈な問いを発する物語です。児童文学だけど、内容は大人に向けたメッセージ。
子どもにも一人ひとりに心があり、喜びや楽しみがあって、悩みと苦しみもある。胸に秘めた願望や葛藤で、張り裂けそうになることもあります。子どもの言動に、大人が教わること、反省することもたくさんある。
離婚や別居のような分かりやすい形態に限らず、もっと日常にも目を向けるべきことがあるように思いました。
すべての大人に、子ども時代があった。その時の気持ちを忘れないように。ケストナーは、そんなメッセージを送り続けているようです。
大切なことを刻み、このnoteを読んでくれた人と共有するために、「訳者あとがき」に書かれている文章を引用して終わりたいと思います。
ケストナーは、多くはおとなのために子どもがつらい目にあうことは、子どもだから仕方のないことでもないんでもない、と言ってくれます。子どもは怒っていいのだ、とすら。そして、頭をしゃんともたげてつらいことに向き合う子どもたちを、ケストナーは心から尊敬しています。
(中略)子どものころ、悲しみと向き合わなければならなかったとき、わたしがほしかったのは同情でもはげましでもなく、この尊敬なのでした。それは、(中略)いわば一段高いところからのほめことばではありません。困難な立場を力いっぱいひきうけているひとりの人間として、みとめてほしかったのでした。
>『ふたりのロッテ』p.220 「訳者あとがき」より引用
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読書のきろく 2021年18冊目
「ふたりのロッテ」
#エーリヒ・ケストナー
#池田香代子 訳
#岩波少年文庫
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