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5【読書のきろく】

記憶の不思議さとおもしろさを体験させてくれた物語

「『5』を読むと、ハトゲキ前の津田がどうして青森の温泉で働くことになったのかわかって、おもしろいですよ!」
このひと言が、読むきっかけになりました。『鳩の撃退法』の、読書のきろくを書いたときのコメントです。

物語のどの場面で、どんな風にそこにつながるんだろうと、ドキドキしながら読みました。というのも、冒頭でグアム旅行の出来事が語られ、帰国後は東京での日々が綴られていきます。主人公である小説家の津田伸一と、彼が関わりをもつ女性と男性が数人ずつ。それぞれが抱える背景が少しずつ明かされていくけど、青森の影はなかなか見えません。

でも、ちゃんとつながりました!
「そう来たのか!」とつぶやいてしまいたくなるような、楽しい驚きと一緒に。

青森の温泉で働く理由だけでなく、『鳩の撃退法』で重要な役割を果たす人物につながる出来事も登場します。先に『鳩の撃退法』を読んだ僕は、あの話はここから始まってたんだと驚きました。先に『5』を読んでいた人は、おもしろいところを持ち出してきたねと微笑んだかもしれません。
連想したのは、YouTubeにアップされたアーティストのライブ動画に書き込まれている、「この会場に僕もいました!この感動は今でもはっきり覚えています。」といった類のコメント。まったく別々の人生を歩む人が、どこかの空間で何かの時間を共有し、それぞれの記憶にとどめている。その点が、予想していなかったところでつながる驚きと喜び。
リアルな人生でそんな体験が実際にあるから、不思議なご縁を描いた物語が、人の心に響くんじゃないかなと思いました。

ちなみに、この『5』の主題のひとつになっているのは、「記憶」。
誰もが確実に体験したものを持っているはずなのに、時間と共に不確実になり、別の体験とも混ざり合って頭の中を漂っているもの。それが人生にどう影響しているのかを、垣間見ることもできます。

読書のきろく 2021年36冊目
『5』
#佐藤正午
#角川文庫

#読書のきろく2021 #小説

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