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木洩れ日に泳ぐ魚【読書のきろく】
仕事でお世話になっている人にオススメの本を聞いた時、即答で教えてくれたのが恩田陸さんの『夜のピクニック』。
その時に一緒に買った恩田さん作品です。
物語の舞台は、アパートの一室。その部屋で、二人きりの男女が、一晩語り明かします。
探り合いの中で少しずつ明らかになる、特殊な関係性と、二人だけの思い出。出来事が記憶に残り、やがて思い出となるプロセスがあり、それを遡りながら紐解いていく。きっかけとなるアイテムや刺激が絡み合って、読み始めたらどんどん次が気になって、緊張感と共に一気に読み終えました。男の弱さと女の強さも描かれていて、現実世界でありえる感情だから、物語の中に引き込まれたんだと思います。
二人が語り合ったのは一晩という時間だけど、一年前の出来事があり、幼少期の思い出があり、時間の旅が読み応えを与えてくれます。
後半には、個人的に起きてほしくなかった展開もありました。でも、起きてほしくないことも起きるのが人生で、その一部を表現しているのが小説なのかもしれません。
「たくさんの出来事の中から何を選び、どんな言葉で飾って記憶に残していくのか?」
写真に残す笑顔について語り合うシーンが心に残って、そんなことも考えながら読み進めました。
写真に残るのは、一瞬の表情。そこに笑顔を残せば、楽しかった思い出として心に残るはず。でも、実際は、いろんな葛藤や、苦しみ、憎しみ、不安なども抱えている。思い出とはすごく不思議なものだということも、考えてしまう物語でした。
最後にその一節を拾って、今回のきろくを終わりにします。
そうして、僕たちは、今この瞬間の絶望も、憎しみも、恐怖も、あきらめも、笑顔の後ろに捨てて、忘れていく。
僕たちはカメラを通して、未来の僕たちに笑いかける。
歳月というフィルターを掛けた時、全てが甘い過去となるように。
全てが幸福な記憶になるように。
>木洩れ日に泳ぐ魚|恩田陸 著 p.280より引用
◇
追伸。
調べてみたら、この作品は倉科カナさん主演で舞台化されることが決まっているそうです。2021年2月に公開予定。二人のやり取りと思い出のシーン、どう表現されるのか興味深い。
◇
読書のきろく 2020年61冊目
「木洩れ日に泳ぐ魚」
#恩田陸
#文春文庫
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