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Q&A 拒否意思表示設定は必要か?

Karen Pryor Academy ライブエピソード#23で、動物がトレーニングに参加したくないときに意思表示をすることができるユニークなトレーニングプロトコルが紹介されました。

ケン・ラミレスはかつてイルカに拒否の概念を教えています。トレーニング中のイルカが、指示された行動を取りたくない時、プールサイドに設置された赤いブイに触れることで、拒否を示すことが出来ると教えました。

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動物に選択肢を与え、その選択肢に拒否が含まれることは、自由意思を尊重する意味でとても重要です。しかしながら、この意思表示方法(No Project)は特定の設定では効果を発するが、一般的にはお勧めしないとケン・ラミレス自身が言っています。

一見、動物の自由意志を尊重するこのNo Protocalがおすすめできない理由はどこにあるのでしょうか。

ハズバンダリートレーニングにおける意思表示

イルカに赤いブイにタッチする事で拒否が示せる事を教える”No Project” は、チラグ・パテルが考案したバケツゲームで、選択権を与えるためにコングやおもちゃを同空間に置き、それをタッチする事でも同等のトリーツを得ることができるようにした事と全く同じ考え方です。違いはは、バケツゲームの場合の意思表示設定は、ハズバンダリートレーニングのみの設定であることに対して、”No Project“の意思表示設定はすべてのトレーニングにおいて行われるという事です。

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拒否表示の利点

イルカがトレーニング中、指示された行動が難しすぎると感じた時や、理解できずに迷ってしまった時、望ましい行動が出来なかったことで報酬が受け取れない上に迷走しストレスを感じます。焦燥を感じて泳ぎ回ったりするよりも、迷いを感じた時に赤いブイにタッチすることで、望ましい行動をした時と同じように報酬を受け取ることができるようにし、ストレスを軽減したのがこのNo Projectです。

ハズバンダリートレーニングとの違い

ハズバンダリートレーニングでは、動物が望まない行動も脱感作や拮抗条件付けを使い練習していくことになります。その過程で、動物が「これ以上は耐えることができません」と意思表示できることは、動物との信頼関係維持にもとても重要となります。

一方、通常のトレーニングでは動物が不快に感じることを組み込んだトレーニングを実行することはありません。そしてトレーニングを行うにあたって動物とは既に信頼関係が築かれており、トレーニングをすることでその信頼関係がゆらぐトレーニングを実行することはありません。つまり、動物が拒否を示すことを可能にするのが重要なのではなく、動物が集中して楽しく参加できるトレーニングを計画することが重要となります。

LRSとの矛盾

LRS(Least Reinforced Scinario)とは、特定の行動の一貫した結果として提示された場合、その後に続く反応の確率を低下させる事象のことです。

トレーナーが特定の行動を要求しても、動物が反応しなかったり、動物が望ましくない行動をとったりした場合はどうなるのでしょうか?SEAパークでは、間違った行動の後には、最小強化シナリオ(LRS)と呼ばれるトレーニング手法が行われます。

LRSには2つのパートがあります。最初の部分は、間違った行動に対する結果です。これはトレーナーが間違った行動に対して強化しない場合に起こります。2~3秒の間、訓練士はリラックスし、環境を変化させないようにします。(環境の変化が誤った行動を強化する可能性があるので細心の注意が必要です)。

この短い時間が動物にとって落ち着きと注意を保つための刺激となります。この刺激が新たな報酬の機会を提供します。LRSの後、動物は落ち着いて注意深い行動をするよう強化されます。また、強化につながる別の行動をする機会が与えられることもあります。

LRSは固定された姿勢ではありません。トレーナーは様々な状況下でLRSを実施することができる柔軟なシステムです。トレーナーは動物を無視するのではなく、その行動を監視しなければなりません。 トレーナーは不適切な行動に反応しないよう、できる限りの努力をしなければなりません。LRSの後、落ち着いて注意深く行動した動物には、その失敗から学習するための補強をします。

LRSを一貫して使用することで、望ましくない行動が減り、穏やかで注意深い行動が増えます。LRSは、強化の不足からくるフラストレーションを軽減するのに役立ちます。LRSは動物が攻撃的にならずに反応することを教えます。

しかし、赤いブイにタッチすることで、キューとは異なる行動(望まない行動)をしたにもかかわらず、正しい行動を(赤いブイにタッチすることは常に正しい行動で強化子を得ることができます)をしたことになり、LRSを試行することはできません。

拒否表示方法知っていても使わない

拒否表現を学んだんにもかかわらず、熟練したトレーナーとのトレーニングにおいて、赤いブイにタッチすることはほとんど見られませんでした。

動物とトレーナーの信頼関係が確立している場合、動物は拒否を示す方法を知っていてもそれを行使することは稀です。

つまり、ハズバンダリートレーニング以外のトレーニングでは拒否表示方法を教えるよりも、いかに動物が楽しく集中してトレーニングに参加できるかに焦点を置いてトレーニングを計画するべきだと考えられます。

参考文献:Sea World Parks &Entertainment ”Animal Training Philosophy

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