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毒入りキュー Poisoned Cue

せっかく学習し機能していたキューが、その効力を発しなくなり困惑した経験がありますか? それはキューが汚染され、本来の意味を失っている可能性があります。

ここでは「毒入りキュー」とは何か、何処でどうやって毒がはいってしまうのか、キューを汚染しないために何ができるか、また汚染されたキューをどう扱えばいいのかを取り上げます。

キューとは?

キュー(Cue)とは、犬にある行動をするタイミングを知らせる「青信号」のことです。言葉、視覚、環境、匂い、音、触覚など、動物が知覚できるものであれば何でもキューになります。例えば、「お座り」という言葉は、「お尻を地面につけなさい」という意味の言葉によるキュー(Verbal Cue)であり、一般的に使われています。私がドッグフードを軽量する音で、犬たちはそれを「食事」という合図だと認識し、所定の位置について待っています。

毒入りキューとは?

2010年に出版されたカレン・プライヤーの著書『Reaching the Animal Mind』では「犬がある合図(Cue)から不快なことを連想するときに、毒入りキューが発生する。」と説明しています。このような不快な連想のために、犬は出されたキューの行動をするのをためらうか、まったくしなくなります。

私たち人間が考える犬にとっての不快とは、懲罰や叱責、あるいはプロングやチョークカラーでコレクションされるような苦痛のことです。しかし、私たちが不快だと思っていることと、犬が不快だと思っていることにはズレがあります。リードをちょっと引っ張っただけでも、頭を撫でただけでも、犬に寄りかかっただけでも犬にとっては不快になりうるのです。

毒入りキューになる理由

毒入りキューが原因で頑固な犬だと烙印を押してしまうことが日常で頻繁に起こっています。毒入りキューの代表格に"おいで "があります。私たちは犬を呼び、意識的にも無意識的にも犬に不快なことをしています。
 ●犬を呼んで、お風呂に入れる
 ●呼んでからクレートに入れる
 ●匂い嗅ぎを楽しんでいる時に呼んでやめさせる
 ●ドッグランで呼ばれたら遊びは終了。繋がれて帰宅。
犬はとても賢く、"何の得があるのか?"という一貫したルールのもとで生きています。おいでの後にすぐ嫌なことが起こると「おいで」がすなわち「嫌なこと」と最も簡単に学習してしまうのです。「おいで」と呼ばれて来ることが、他のもっと魅力的なものよりも報われない場合は、ほとんどの犬はキューに従わないか躊躇いを見せるでしょう。

正の強化でも起こり得る毒入りキュー

キューに毒を持たせてしまうのは嫌悪刺激だけではありません。正の強化を使うトレーナーは嫌悪刺激を使わないので、キューが毒を帯びてしまうことはないと考えてしまうのも盲点です。一貫性を欠いていたり、基準が曖昧な強化、非結合型強化(*注釈)もその原因になります。つまり"何の得があるのか?"の予測が立てられなくなった時に、そのキューは毒されてしまうのです。

*注釈:非結合型強化 Non-contingent Reinforcement(NCR)とは、特定の行動の有無に関係なく強化子を提示することです。強化は通常、行動の存在に依存します。したがって、NCRはどのような行動にも依存しない(not contingent)ことになります。

毒入りキューの発見法

キューが毒入りか否かは、犬の反応をみるとわかります。犬がハンドラーに集中しておらず、注意散漫になっているでしょう。判断するのは
◆既に習得し安定して使っている行動のキューを出す。
▶︎犬がなんの問題もなく集中して行動できた場合。注意散漫になったキューは毒が入っている疑いがあります。
▶︎引き続き犬の注意は散漫で、行動できない場合。犬の体調に問題がない場合、環境設定に問題があると考えられます。犬が集中できない原因を探りましょう。

時間をかけて、さまざまな状況であなたの犬を観察してください。
・リラックスしている時
・飼い主と一緒に遊んでいる時
・他の犬と一緒に遊んでいる時
・郵便配達に吠える時
・公園を歩いている時
・頭を撫でてもらっている時
このような状態の時のボディランゲージは何ですか?どのようなボディランゲージを提供していますか?しっぽの高さは?ゆっくり振っていますか?早く振っていますか?犬の耳はどうなっていますか?犬は唇をなめていますか?あくびをしていますか?これらが早期発見の鍵となるでしょう。

毒入りキューの対処法

最初に、数回不確かな結果を伴う一貫性のないキューを出したからと言って、そのキューが即毒入りキューになる訳ではないことを言っておきましょう。ある一定値を超えたところで、キューは毒を帯び本来の意味では使えなくなります。そうなる前の早期発見が理想です。

しかし、毒入りキューを発見してしまった場合はどうすればいいのか。

大丈夫、毒入りキューはかなり簡単に修正できます。行動を教え直して、新しいキューを追加すればいいのです。オールドキュー・ニューキュープロトコルのように毒の入った合図を新しい合図に置き換えることはできないので、行動を教え直す必要があります。犬は行動自体は記憶しているので、再教育はかなり迅速に行われるはずです。新しいキューを追加して、毒入りキューを削除し、犬が正しい予測をし安心していることを確認してください。そして新しいキューを汚染しないように注意してください。


参考文献
"Poisoned Cues: The Case of the Stubborn Dog" By Rebecca Lynch on 04/01/2010

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