失敗も含めた蓄積、道のりは決して無意味なものではなかったんだ──「バズ・ライトイヤー」観たよ。
表題の通り───いや、無限の彼方だ。
バズ・ライトイヤーといえばオモチャが主人公のディズニー&ピクサー映画「トイ・ストーリー」に登場する、今やみんなが知っている世界的、いや宇宙的ヒーロー、いや、スペース・レンジャーだ。
特に「トイ・ストーリー2」は中学生の頃に友人たちと映画館に観に行った程度には好きだった。当時はパンフレットも買ったんだっけかな。
なお今回の声優さんは所ジョージさんではない。
最初はちょっとビックリした。
私の中ではバズ・ライトイヤーといえば所ジョージさんであって、相棒にして親友のウッディは唐沢寿明さんだったかさ。まぁしかしそれは良いさ。観ている内にこのバズの事が好きになる。みんなもそうだったと思う。そうだろう?
「トイ・ストーリー」でのバズはあくまでもオモチャのフィギュアだ。
ボタンを押せば背中のウイングがジャッと開き、腕を押せばレーザービームが光って音が鳴る。それにクールな空手チョップのギミックだってついている。
でも「バズ・ライトイヤー」でのバズはホンモノのスペース・レンジャーだ。今作は95年にアンディが買ってもらったオモチャのバズの元になった映画を観る……という事で、とにかく、ギミック満載のオモチャの、アンディが足の裏に消えないマジックで名前を書いたバズではない。
アンディが憧れたスペース・レンジャーとしてのバズが描かれている。
じゃあ、またざっくりとあらすじと感想を書いていこう。
因みに今回も特にネタバレに関する配慮はできていないので、今後観る予定があって、かつネタバレはちょっとな~という方は閉じるなりブラウザバックするなりして貰えると有難い。
スペース・レンジャーとしての任務で未知の惑星に降り立ったバズは
上官のアリーシャ、新人のフェザ……フェザリンなんとか……の三人で惑星を探索し、危険の有無や度合いを確認した後にシップ内でコールド・スリープ中の研究員たちを起こして……というはずだったんだけれど、バズが原因で起こってしまった不測の事態から惑星での生活を余儀なくされる。
じゃあここから宇宙に飛び出し故郷に帰還するまでのサバイバル生活が描かれるのか? と言われれば別にそういう訳ではなく、案外、それもわずか一年で居住区を切り開き、惑星の豊かな資源を元に再び宇宙へ飛び出すための準備の殆どを整えてしまうに至る。
これはこれで物凄い事なんだと思うけれど、まぁ話はここからが長い。
宇宙に飛び出すための実験飛行を繰り返すために、燃料の元となるクリスタルを生成しては実験に挑むんだけれど、これがなかなか上手くいかず、難しい話は分からんがとにかく故郷に帰還するまでの性能を引き出し切れずにいる。
そうこうする内に超高速で宇宙空間で実験を続ける内に、惑星に帰還した際に急速に惑星内の時間が進んでしまっている事に気付く。アリーシャは言う、「ウラシマ効果」だと。
「ウラシマ効果」───。
あれだ……。
相対性理論とかそういうやつだ……(わかってない)
わかってない。
わかってはないんだが聞き覚えならある。
ガイナックスが作ったロボアニメ「トップをねらえ!」でも重要な仕掛けになった効果だ。
スゲーSF映画っぽい。そういうのカッコイイから好きだぜ。
要するに超高速で移動することで時間を引き離してしまうから、体感時間はめっちゃ短いのに周りでは時間が物凄く経過してしまっているという、アレだ。
ざっくりとした雑な理解だが、まぁ。
そんな感じでバズが超高速で宇宙実験を繰り返すことで周りはドンドン年老いて世代を重ねていくし、不時着した惑星での歴史は刻まれていく。だから不時着した頃の同年代のアリーシャはパートナーを得て子を成し、その子がまた孫世代を産み……と、もう実質的に彼らにとって惑星は「故郷」となっていく。
バズはこの宇宙に一人ぼっちのスペース・レンジャーになってしまった。
付き従ってくれるのはアリーシャが用意してくれた、バズのケアをするための高性能ネコ型ロボットのソックス一匹。
まぁ、このソックスが物凄くコミカルで、愛嬌があって、かつ優秀なやつなんだけれど。観たやつは大体好きになる。そりゃあ私もそうだ。
すっかりお婆ちゃんになってしまったアリーシャはこの世を去り、それに伴い新しい上官にあたるバーンサイド中佐によって、ついに宇宙実験は辞めにしよう、という話になってしまう。
まぁ、バズを除く周囲の温度感的には無理もない話だよな~とも思うけど。
自分に置き換えて考えてみれば、別に惑星での生活だって不自由でもないんだし、もう何十年も前から失敗してる実験なんだったらもういいんじゃない? って思ったとしても不思議じゃないしね。
それでもひとり宇宙へ、故郷への念が捨てられないバズは方針を無視して無理矢理に宇宙を目指す。
ソックスがこの62年(!)をかけて計算した結果、必要な性能を引き出す事に成功したクリスタルを生成し、ついに実験は成功したものの、再び惑星に不時着。
しかしそこでは突如としてやってきた皇帝ザーグ率いるロボットたちの侵略を受ける惑星の姿があった。一体こいつらはなんなのだ? と困惑するバズ。
こうして世代交代を経てスペース・レンジャーに憧れるアリーシャの孫のイジー。
なんだかちょっと抜けてる男性のモー。
それにタフでパワフルな模範囚のお婆ちゃんダービーら、ジュニア・パトロールと共に、バズは惑星を襲来したザーグの侵略を阻止し、その目的を探る「サプライズ・パーティ作戦」へと挑む……というのがあらすじ。
観て一番強く感じたのは「挫折、失敗を乗り越える方法は一つではない」という事だろうか。
あるいは「残してきた結果に、成功も失敗もない」だとか。
バズは「自分の引き起こした事態でシップの皆を故郷に帰られなくしてしまった」という強い失敗からくる自責の念があり、それを解消してスペース・レンジャーとしての職務を全うせんと実験を繰り返した。
皇帝ザーグでいうところの「意味ある者」になろうとがむしゃらに繰り返して、その結果が何十年も経った惑星と一人だけ若いまま取り残された自分だった。
また、「サプライズ・パーティ作戦」に乗り出した三人の仲間に対してもたびたび「自分一人でやる」という旨の言葉をかけていた。
アリーシャの孫のイジーだって、モーだってそうだ。
作中で大小さまざまなミスをしてしまっては落ち込んで、それを乗り越えたり補う事に昂揚感が生まれた。
失敗は誰にでもあって、でもそれを仲間と協力したり、踏ん張ることで乗り越えていくというシーンが意図的に散りばめられている。
ダービーはちょっと分からんな。スゲー頼りになる婆さんだった。
バズにはジュニア・パトロールという仲間たちが居た。
「次にもう少し頑張ればいいだけさ」と言った風に声をかけあったり、そうする内に次第に仲間に対して当初は一歩引いた立場から声をかけていたバズも、自分がスペース・レンジャーになった当初は出来の悪いヤツだった……と弱い側面を見せるような人間的成長を遂げる事になる。
一方で皇帝ザーグには仲間が居なかった。
もうネタバレで書いてしまうんだけれど、要するに皇帝ザーグは別の世界線を辿ったバズ本人だ。
そこは父親じゃないんだ⁉ って思わんでもなかったが。
まぁ。はい。いい。
彼は燃料のクリスタルを持ち惑星を脱出し、偶然、超テクノロジーのシップと接触したことによってウラシマ効果を逆手に取ったタイム・トラベル方法を確立させ、惑星不時着と帰還不可能という失敗を帳消しにしようとはるばる過去の世界にあたる劇中世界にやってきた。
一人ぼっちのスペース・レンジャーが、そのまま失敗を乗り越えようとしたもう一つの結果ともいえる。
だから厳密にはその過程自体には結構同情的な気持ちもあったりする。
が、彼は付き従ってくれる(オールド・)ソックスこそ居たものの、たった一人のまま「失敗」を覆そうと妄執に憑りつかれ、最後はバズに味方したソックスを「裏切り者!」と踏みつぶしてしまう精神性になってしまった。
彼はもう明確にバズではなくなってしまった。
妄執に憑りつかれた立派な──って言い方もおかしいんだけれど──ヴィランになり果ててしまっていたんだ。
バズに正体を明かし、過去を帳消しにして失敗をなかったことにできるんだぞ、と詰め寄る皇帝ザーグと、歴史をなかったことにしてしまうとこれまでの惑星や仲間との蓄積のすべてを否定してしまうことになる、と抵抗するバズ。
そこに挫折や失敗、恐怖を乗り越えてザーグシップで一緒に戦ってくれる仲間たちが合流する。
ここまでの道のりは喪うばかりのものではなかったのだと。
最後は故郷に帰還するためのキーアイテムたるクリスタルを皇帝ザーグもろとも破壊し、バズと仲間たちは故郷となった惑星に帰還する。
そこでは新しいスペース・レンジャーとしての任務が彼らを待ってくれていた。もう四人とソックスは立派なチームになっていたんだ。
なんとも爽やかな終わり方であった。
失敗は乗り越えられる、取り戻せる。
そして失敗も含めた蓄積、道のりは決して無意味なものではなかったんだと、力強く背中を押してもらえるような気持ちになる。
SFアクション映画としても飽きさせないテンポと見ごたえのある画だったし、こうして思い返すと「面白かったな~!」とウキウキした気持ちになれる、良い映画だったと思える。
無限の彼方へ、さぁ行くぞ。ブシューゥ↑