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いろいろアソート

『雪』#シロクマ文芸部 

 雪が降る日は音が消える。布団の中で目が覚めると既に鼻が冷たく、はあ、と息を吐くと白い。そんな朝はまるで、雪の静寂が時まで止めてしまったように感じていた。昔の話だ。
 子供の頃、ちぇんちぇんと車のチェーンの音が近づいてきて、ゆっくり走り去って行くのを聞くと妙にもの悲しさを感じたものだ。まるで静まり返った空気の中を異世界からの使者が行くような音。その音でようやく、外は雪なんだな、と思い、やっと雪の状態を想像するのだった。
 みぞれを含んだもったりと重い雪なら道は車や除雪車にかき散らされ凄惨なほどに乱れているはずだし、軽く細かい雪ならつかの間の白と黒のモノトーンの世界が出現しているはずだ。固く引き締まった脹脛ふくらはぎのような雪なら凍って根雪になる。子供にはまっさらで美しい雪が平たく続いているその景色が好もしいが、むしむし積もるなら大人は屋根の心配をしなければならない。家がみしりと鳴ることもあった。
 大人になって車で出勤するようになると、朝起きたときに雪、というあの絶望感といったらなかった。雪かきをしないで家を出ることができないという、あの途方もない疲労感。
 私は雪の存在する世界に生まれ、育った。あの四肢の先のすべてがかじかんでしもやけになる日々を、不思議な気持ちで思いだす。決して好きではなかった。嫌でたまらなかった。それでもあの雪の静寂を知っていることはなぜか大事にしている。もしかしたらそれは、世界の秘密のひとつを知っているような気がするからなのかも知れない。

 雪にまつわることを思い出した散文です。

#シロクマ文芸部


みらっちチャンネル更新

なんとか第二回目、更新できました。
良かったらお聴きください。


『青音色』の渡邉有さんの「傀儡」朗読偏

 ピリカ文庫のテーマ「鬼」の回の、すまスパ朗読偏です。
 渡邊有さんの「傀儡」は納豆ご飯さんが、二郎丸さんの「こうして僕は鬼になった」はこーたさんが朗読されています。今の季節にぴったりですね。



海人さん、創作について語る

「みらっちチャンネル」でも話してますが、私はいまどうもプチスランプらしくすっきりしない状態にあります。海人さんのこの記事に励まされました。みんな悩んで頑張ってる。うん、私も、がんばろ。