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猫を諦める理由 #シロクマ文芸部

 恋、猫、とわずかに唇を動かしながら、石段を上がる。
 恋、猫、恋、猫。
 恋、猫、恋、猫、恋、猫。
 猫で止まった。

 昨日、最近なんとなくすれ違いが続いてる彼が、会おうとLINEしてきた。
 嫌な予感。別れの予感。
 回避したところで先延ばし。かと言って、自分からさよならとも言いたくない。
 それで、近くの神社に行った。聞いてみようか、神様の声とやらを。
 石段を、恋、猫、と心で唱えながら一歩一歩。
 猫を飼いたい、とずっと思っていた。
 でも彼が猫アレルギーだから諦めていた。
 どうせ別れるんなら、猫を飼いたい。だから、願掛け。この階段が終わった時の言葉が神様の声。
 猫。——猫か。
 そうねだいたいね。当たるんだ、私の勘。
 よい猫さんに会えますようにとお参りをして、また階段を下りる。
 だいたい、LINEで別れ話をしないだけ、ましなのかもしれない。
 最後に会うのは気まずいけど。最後だってわかってるのに会うのはダルいけど。なんか体には触ってきそうな気がするけど。そしたら私も「ま、いっか」になっちゃいそうで嫌だけど。
 先に猫飼っとけばいいか。
 くしゃみと鼻水でそれどころの騒ぎじゃないかも。
 でもそんなに急に、簡単に、運命の猫と会えるだろうか。
 猫、恋、猫、恋、猫、来い。
 下りの階段の途中から始めた。
 猫、恋、猫、恋。
 猫、来い、猫、来い、猫、来い。
 とおりゃんせ、とおりゃんせ。
 ここはどこの細道じゃ。
 行きはよいよい、帰りは怖い。
 最後の階段を降りたら「来い」だった。
 恋だった。
 ああ、こうして私は。
 さっきから、石段を上ったり下りたりしながら、猫を諦める理由を探している。


 

 ※「笑い猫」さんのイラストをお借りしました。

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