本屋さん開店しま「した」。
気になっていたのだけれど、参加して良いものかどうかと思いあぐねていた企画、メディアパルさんの募集企画。
2、3年前からメディアパルさんの企画にはずっと助けられている。
毎回、書きたくなる魅力にあふれた「お題」がそこにある。
今回、なぜ書きあぐねていたか、というと。
本屋さんが夢や想像や妄想ではなくなってしまったからだ。
現実になってしまった。
私は今、仮にもかつて夢見た「本屋さん」をやっているのである。
共同書店の棚主になった。
仮にも、とつけたのは、私自身が経営しているとは言えないからで、でも私の中では立派な「本屋さん」だし、夢が実現した、と言って、間違いないように思う。
しかも、想像していた以上の「夢の本屋さん」だ。
書店の名前は、「吉穂堂」。
神田神保町にある共同書店「PASSAGE」の3階の、小さな小さな棚が、私の本屋さんだ。
「PASSAGE」は、フランス文学者の鹿島茂さんが起ち上げた古書店である。息子さんご夫妻が経営されている。
特に私の棚がある3階の2号店「PASSAGEbis!」には、カフェがついている。立地が立地だけにリッチ感が凄まじい。超のつく素敵なカフェである。近隣の老舗のお菓子屋さんのお菓子や、コラボスィーツ、坩堝、という文学を愛する人にめっちゃツボりそうな名前のコーヒーもある。
私が「PASSAGE」に棚を持つきっかけになったのは、noteで知り合った海人さんのコメント。
以下の記事に、詳細が載っている。
とにかくPASSAGEのHPに書いてあった「なら、本屋になっちゃえばいいじゃん」。その言葉にガツンと衝撃を受け、そのまま申し込んだのが昨年の9月だ。
ここで、自分の本が、ちゃんと売れている。
商売になっているかと言われればまったくなっていないが、でも、考えてもみて欲しい。
素人の作った、お世辞にも完ぺきとは言えない本だ。
作品から装丁、扉、表紙、奥付、ブランディング、コピーライティング、営業すべてにいたるまですべて自前で、デザイナーさんも校正さんも編集さんも誰の力も借りていない、正真正銘の「手造り本」。もちろん印刷だけは印刷屋さんに頼んでいるから、コピーを手で綴じているわけではないが、それでも手作り感満載だ。
最初の頃なんて本の作り方もわからないものだから、本文の体裁が悪かったり、字が抜けていたり、変なところに「」文が入っていたりする。慣れて来た今だって、しょっちゅう、失敗している。本当に、この本にお金を払うのはクラファンやボランティア精神が必須だと思うような、そんな本。
そんな本が、売れているのである。
(この文章の「売れる」は「売ることができている」という可能の意味。バカ売れしているとかバズっているという意味ではない。いや、そんなの誰も間違わないか。笑)。
もし、こんな不完全な本を市場に出すなんて許しがたい、とおっしゃるかたがいたら、ぜひ、ご自身の勤務先や懇意の出版社なりで体裁を整えていただきたいと思う。いやもう、むしろお願いします。笑
本を作ってみて、本を作る方、本に携わるかたのご苦労が、心の底から理解できた。1冊の本にかけるすべての作業と人的労力、コスト。どれほど大変なことか。
本を作り売る、ということに携わるすべてのかたを、リスペクトしている。
ちなみに最初のお客さんがコニシ木の子さんだったことも、相当、誇っていいことだと思っている。本当にコニシさんは「なんのはなしですか」に目が無いお人だ(来月、年忘れの路地裏フェスにご出演なさるらしい)。
そもそも、500ページに及ぶ20万字の長篇ファンタジーを自腹を切って文庫本にして、1冊のみならず十数冊立て続けに作り、神田の古書店の棚を借りてそれを売るとか、「公募に応募するなどして小説家としてデビューし、商業出版され書店に流通」という通常の流れを完璧に無視している。
自費出版でもない。フリマで売るでもない。
あたかも小説家が本を売るような体で、なんかいろいろすっ飛ばして、何食わぬ顔で古書店に置いてあるのである。
完全にこれまでの「本」というものの常識を覆している。
それが『吉穂堂』だ。
鹿島先生は「本屋になっちゃえばいいじゃん」とおっしゃったが、ついでに「作家になっちゃえばいいじゃん」と私は思ったのである。まったく「なんのはなしですか」としか言いようがない。
こんなことを知ったら、そんなことまでは言って無いよと鹿島先生はおっしゃると思うが(怒らないとは思うのだけど・・・)、本を作った告知をXですると、ときどき鹿島先生がリポストしてくださるのだ、なんと。
本屋さんをやったことで、著名な作家さんにリポストしてもらえるという栄誉までついてきた。すごいことだ。
もちろんこれは、ポストされた内容や人というより、PASSAGEのタグがついているのと「棚主さんよ、PASSAGEを盛り上げていこう」の一心であろうと思う。だがしかしその、本とお店を愛する細やかな気遣いが素晴らしいといつも思う。なかなかできることではない。
畏れ多くて一回もお話したことが無いが、いつかお礼を申し上げたいと思っている。
ともかく、お客様第一号のコニシさんは、そんな私の半ばやけくそな勢いを「面白い」と思ってくださったようだ。
そして今「シリーズの他の本も読んでみたくなった」「みなさんが話題にされているあの本を読んでみたい」と言ってくださる方が現れるほどにまでなっている。
これほどの夢の実現があるだろうか、いや、ない。
マジか!の連続である。
さらに、今度は吉穂堂を飛び出し、海人さんと、noteの創作仲間の渡辺さんと一緒に、同人サークル『青音色』を起ち上げ、同人誌『青音色』を創刊する。
12月の文学フリマでお披露目だが、その後、吉穂堂やその他のECサイトでの販売も考えている。
日本全国津々浦々、小さな街の本屋さんが続々と無くなっていると聞く。
その一方で、こだわりの本屋さんが生まれてもいるらしい。
「PASSAGE」もその一つであろうと思うし、ECサイトでも本は売られている。本屋さん、という形が、いろいろなヴァリエーションを持ち、変化している中で、人と本とのつながりもまた、変化しながら続いていくのだろうと思う。
さて『吉穂堂』は、短期間での挑戦ではあるが「PASSAGESOLIDA内『吉穂堂別館』」も設けている。『吉穂堂』では自作本を売っているが、『吉穂堂別館』では、吉穂のセレクトした本を置いている。
今、特におすすめしたい本たちは、こちら!
SOLIDA吉穂堂別館のおススメ本はこちら
noteでお馴染みローローさん(白川雅さん)の『エジプトの輪舞』上下巻
西欧とばかり向き合いがちな日本人に足りない視線がここに。
今、世界で何が起こっているのかを知りたいあなたの必読書。
(『エジプトの狂想』は完売しました!)。
noteの創作仲間の作品を集めたウミネコ制作委員会刊行の『ウミネコ童話集』(一)、(二)巻
各地文学フリマ等で驚異的人気を誇る、ウミネコ制作委員会さんの童話集。noteの創作仲間たちに募って集まった童話作品を2巻に分けて収録。noteの人気絵師さんたちによる挿絵も必見!
他にも、ZINEでウミネコ雑誌を出版したり、noteの創作アカウントで活躍する名だたる作家さんの作品をmini文庫として出版するなど、幅広く活躍中。
蝉谷めぐ実さんの『化け者心中』
先日山田風太郎賞を受賞された蝉谷めぐ実さんのデビュー作『化け者心中』。
この作品に出会ったときの感動を、はてなブログに書いていたので良かったら参考までに(ちなみに先日、PASSAGEに置いているというXのポストを蝉谷さんご本人からいいねしてもらえました!ヤッタ!)。
古典エッセイスト大塚ひかりさんの『くそじじいとくそばばあの日本史』
今私が最も熱い視線を注ぐ(!)大塚ひかりさん。
置いたそばから売れる大塚さんのご本。タイトルで誤解されてしまうのかもしれないが、この本も、真面目で、学びが深い内容。ぜひに。
ジェリコー通りの棚にある中原たか穂『ジェリコー』
「PASSAGE」全店舗の棚にはそれぞれフランスの通りや作家、画家の名などがつけられている。吉穂堂別館はジェリコー通り。
この漫画を売りたいがために、ここを借りた。
の、だが。
なんだろう、目印みたいになってしまったのか・・・ずっと棚に。
読んでもらいたい、名作なので。
PASSAGEbis!吉穂堂のおススメ本はこちら
※吉穂体調不良のため20日の搬入が出来なくなりました。搬入されたらまた告知します。
吉穂堂と吉穂堂別館の場所
メディアパルさん、今回も素敵な企画、ありがとうございました!