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自著論文等紹介「奈良県立万葉文化館蔵『日本書紀』解題」

吉原啓「奈良県立万葉文化館蔵『日本書紀』解題」(『万葉古代学研究年報』第18号、2020年)

この解題は、奈良県立万葉文化館が所蔵する『日本書紀』(江戸時代の版本。以下、万文本)についてのものです。

『日本書紀』全巻の版本については、次のように言われています。

①慶長15年(1610)の古活字版
②寛永年間(1624〜1643)頃の寛永頃版本(①を一部訂正し、訓点・返り点をつけたもの)
③寛文9年(1669)版本(②の後刷本)

さて、問題としている万文本は、刊記のない「無刊記本」です。
そのため、これだけではいつの版のものなのか、はっきりとわかりませんでした。

ただ、『日本書紀』版本についてのこれまでの研究を参照すると、寛文9年の刊記がない「無刊記本」は基本的に②の寛永頃版本とみて良いと指摘されています(小倉慈司「古活字本・版本『日本書紀』をめぐって」(新川登亀男・早川万年編『史料としての『日本書紀』勉誠出版)2011年)。
その寛永頃版本にも新旧があるとされており、万文本を検討すると、新しいタイプの寛永頃版本と共通する特徴を持っていることがわかります。

※この解題に載せている万文本の画像は、上記の小倉さんのご論文に掲載されている画像や説明と比較できるようにチョイスしています。比較していただければ、そして小倉さんのご論文も参照いただければ、よりよくご理解いただけると思います。

それでは、万文本は寛永頃版本なのでしょうか?

おそらくそうだと思うのですが、他の寛永頃版本にはない訓点・返り点が万文本にはあり、そこに疑問があります。
ただ、他の寛永頃版本にも、独自の訓点・返り点があるため、これらの独自な訓点・返り点は、刷られた文字ではなく書き入れなのか?とも考えています。
しかし、恥ずかしながら私では書き入れかそうでないかの判断を下すことができず、この点についての判断は保留にしてあります。

どなたか、見分け方をご存知でしたらご教示賜りたいです。

ともかく現段階では、万文本は寛永頃版本の特徴を有するものの、訓点・返り点に疑問を残す、と指摘するに留めておきました。

なお、解題の最後にも書きましたが、万文本には落丁や追補した丁があります。
もし博物館関係者で借用・展示を考えておられる方がいらっしゃいましたら、ご注意くださいませ。

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