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恋とマネタイズ

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ビジネスって恋愛と似ている。 このマガジンでは、恋愛のときめきとビジネスとのシンクロを感じてもらう、ビジネス女子のための「起業に役立つ恋愛小説」をオムニバス形式でお届けします。…
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#恋愛小説が好き

「あなたの聞きたいことは何?」#28

「ねえ、どう思う?」 ミルクティー色のカップを両手で包みながら、彼女はそう聞いた。大きな窓の向こうにはつめたい風が吹いていて、雪がちらついている。 「どうって?」 「だから……彼のことよ」 彼女の目は、どこかもどかしそうだった。 私は軽く頷いて、彼女が話しやすいように姿勢を正す。こういうとき、相手の話を無理に引き出してはいけない。話したいことは、自然と流れ出すものだ。 「先週の金曜日、ふたりで食事に行ったの。でも、帰り際に彼が言ったのよ。『今度、友達も誘ってみんな

「知っている」は恋をしない #27

 「それで、どうすればいいと思いますか?」  そう尋ねられたとき、わたしは何と答えるべきなのか、一瞬迷った。  カフェの窓際、曇り空の下でくぐもった光がテーブルを照らしている。ガラス越しに見える道行く人々は、皆コートの襟を立て、冷たい風を避けるように足早に歩いていた。  目の前のミサキは、両手でカップを包み込むように持ちながら、わたしをじっと見つめている。  「SNSも頑張っていますし、ブログも書いています。ターゲットも明確にして、世界観も統一してるんです。でも、なか

手放すもの #26

 日曜の午後、彼と別れた。  正確には、「別れ話をした」と言ったほうがいいかもしれない。  彼は「考えたい」と言った。私は「わかった」と答えた。話し合いは、静かだった。ドラマみたいな喧嘩も、涙もなかった。ただ、終わるべきものが終わる前の、あの独特な重さだけが空気に漂っていた。  帰り道、カフェに寄ってコーヒーを飲みながら、ぼんやりとスマホを眺めた。  付き合い始めたころの写真が並ぶフォルダを開いて、しばらくスクロールして、そっと閉じる。こういうとき、削除する人もいるけ

あの人とわたし、どっちが悪い? #25

街はすっかりクリスマスの装いだ。駅前のロータリーには大きなツリーが飾られ、夜になるとイルミネーションが街路樹を照らす。雑貨店のショーウィンドウには、可愛らしいリースが並んでいる。どのリースも、まるで誰かの心を待っているかのようだ。 今年は、私もリースを作ろうと思っていた。でも、まだ材料の箱すら開けていない。なんとなく気持ちが乗らずにいる。 ・・・ 「どうしてうまくいかないんでしょうか?」 クライアントの彼女が、カフェのテーブル越しにそう言った。手元のノートには、いくつ

背中は押せるけど。#24

あのとき、わたしが「それ」を選んだ理由を、説明できる人なんて誰もいないだろう。わたし自身にすら。 目の前に現れた新しいクライアントである梨花を見た瞬間、記憶が蘇った。春の夕暮れ。小さな駅前の喫茶店で、わたしは決断を迫られていた。 「彼のこと、どう思う?」 年上の親友が向かい側で静かにコーヒーをかき混ぜながら言った。 「いい人だと思うけど」 そう答えたわたしの声は、まるで他人事だった。 「いい人かどうかじゃなくて、好きかどうかを聞いてるんだけど」 まっすぐな視線に、小さな

おわりは、はじまり。#23

10月の始まりを告げる朝の風は、どこか冷たく、夏の名残をすっかり吹き飛ばしていた。私はお気に入りのカフェで、窓際の席に腰を下ろし、温かいカフェオレを一口飲む。ほのかな苦味とミルクの優しさが口の中で広がり、なんとなく心が落ち着く瞬間だ。 「また、一歩ずつ進めばいい」 自分に言い聞かせるように、その言葉を心の中で繰り返す。彼と別れてから3か月。私たちの関係はいつの間にか崩れてしまった。お互いに気持ちが離れていく瞬間が、じわじわと心に染みてくるように感じたあの日々。どうしてあの

居心地のわるい花 #22

 わたしは、菜々美の話を静かに聞いていた。彼女の目は遠くを見つめ、普段の自信に満ちた表情とは少し違って、どこか迷いを含んでいるように見えた。  「あの人って、なんだか手の届かない花みたいだと思いませんか?」菜々美は小さな声で言った。  彼のことだ。菜々美がいつも話している男性。仕事を通じて出会った彼との関係は、ビジネスの中にあるにもかかわらず、どこか特別な意味を持ち始めているように感じた。彼女が感じている不思議な距離感、その感情の揺れを、わたしは何度も聞いてきた。  「

何度でも #21

夕暮れの空は赤く染まり、日が沈むまであと少し。私はため息をつきながら、海辺のベンチに座っていた。彼の隣で、またしても失敗したアタックの話をしている。何度目になるか数えるのも面倒になってきた。 「結局、またダメだった…彼に何回言っても、うまくいかない。」 視線を落としながら、私は苦笑いを浮かべた。彼はいつものように優しい表情で私の話を聞いている。そんな彼の態度が、今は少しだけ胸に刺さる。だって、彼はいつもそばにいてくれるのに、私が夢中になっているのは別の男性だから。 「み

さっぱりな彼女 #18

「先週の日曜日、仕事だって言ってたけど、会社の人たちとご飯行ってたんだって?」   彼は穏やかに話し始めたが、少しだけ疑念を含んだ声だった。美咲は、「そうなの。」と答えた。 「仕事はしてたんだけど、その後に食事に行こうって言い出してね。だから、そのままみんなで行ったのよ。」 「ん?誰が言い出したの?」 「えっと、上司とか。みんなで決めた感じ。まあ、みんなでね。 仕事が一段落ついてから、みんなでちょっとどうしようかって話になって、上司も交えて、まあ同僚たちもいて、それ

戦わない強さ #17

デスクの上に置かれたスマホの、メール通知音が鳴った。麻衣子の名前が画面に浮かぶ。見慣れた名前だが、最近はその文字列が重くのしかかる。 起業をサポートしていた麻衣子、私は何度も彼女のビジネスの成功を手助けしてきた。だが、今、彼女はビジネスとは別のことで迷い込んでいる。 「そんなこと言わなくてもいいのに。」 長文のメールを読んで、ため息が出た。 麻衣子が最近繰り返しているのは、彼への不満と非難だ。最初は些細なことだったが、今や何かにつけて彼を責め、冷たい言葉を投げかけている

いま手の中にあるもの #16

窓際の席から外を眺めていると、風に揺れる木々の葉が、秋の訪れを告げているように見えた。 ドアが開く音がして、聞き慣れた声が耳に届いた。「ここにいたんだね。」 顔を上げると、そこには彼が立っていた。彼の表情には、いつもとは違う少し緊張したものが混じっていた。 「座ってもいい?」彼はそう言いながら、向かいの席に腰を下ろした。わたしは頷き、彼が何か話したいことがあるのだと感じた。 「実は、君に相談したいことがあって。」彼は少し戸惑いながら言葉を選んでいるようだった。「新しい

似合いのふたり #15

「最近、何か悩んでることがあるの?」彼が心配そうに尋ねた。 「ううん、悩んでいるってほどではないんだけど…」わたしは少し考えてから言葉を選んだ。「なんだか最近、いろんなものを詰め込み過ぎたせいか、自分の言葉が自分らしくない気がしてるの。上手く言えないけど、話していてしっくりこない感じがするの。」 彼は少し考え込んでから、興味深そうに尋ねた。「言葉が自分らしくないって、どういうこと?」 「うーん。例えばね、この前わたしが友だちに将来の夢の話をしていたときに、わざと難しいビ

嫌われたのかもしれない。#14

9月のはじめ、秋の気配が少しずつ感じられるようになった頃、美樹がオフィスにやってきた。彼女は少し疲れた様子で、わたしの向かい側に座ると、深いため息をついた。「どうしたの?」と声をかけると、美樹は迷いながらも、ゆっくりと話し始めた。 「最近、彼がずっと落ち込んでいて……。何か気分転換になればと思って、旅行に行こうって提案したんです。でも、あまり乗り気じゃなくて、結局断られちゃいました。それで、もしかしたら嫌われてしまったんじゃないかって、思ってしまって……。」彼女の声には、深

決めるということ #13

夏の終わりを告げる涼しい風が、わたしの髪をそっと撫でていく。カフェのテラス席に座り、少し冷めたコーヒーを手にしながら、わたしは遠くに広がる夕焼けをぼんやりと眺めていた。空は鮮やかなオレンジから淡いピンクへと染まり、やがて静かに夜の帳が降りてくる。季節が移ろいゆくこの瞬間が、わたしの心にも何かを告げようとしているようだった。 彼との関係に曖昧な影が差し始めたのは、ちょうどこの季節の変わり目からだった。太陽が高く照りつける日々が過ぎ、少しずつ日差しが柔らかくなる頃、わたしたちの