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荻窪らーめんの思い出

 一九七四年。ぼくが上京したとき、よく使うのは国鉄の荻窪駅でした。
北口にラーメン屋さんがいくつかあって、当時は、荻窪のラーメンが有名だということを知らずに食べていました。
 駅の北口の正面に醤油ラーメンの店がありました。分厚い一枚板のカウンターに出されるこのラーメンは、厨房に入ってスープをじかにすすりたくなろほどコクがありました。
 一杯百九十円。ぷーんと鼻をくすぐるかつお出汁の香りが店の周囲に漂って、それはもう食欲をそそるので、食費が足らない月は近寄るのは危険でした。
 数年前に仕事のついでに荻窪駅の北口をのぞくと、すっかり風景が変わり、目的のラーメン屋さんはなくなって青梅街道が見晴らしよく見えていました。
 冷たい北風にあたりながら、あの味も風に吹かれてこの世から消えてしまったのかと思うと、もっと食べておけばよかったとつくづく後悔しました。

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