憧れの甘い塔を解体する
今日も、友人と会う。2歳の可愛い暴れん坊を連れて友人に会うのは場所選びが重要だ。ひとところに落ち着いていられない怪獣は、僕らがゆっくりと会話するのを許さない。僕か幸枝さんのどちらかはどこか遠くについて回ることになる。
そんな状況を打破すべく、幸枝さんが見つけ出した一つの答え。
「カラオケとかどうかな?パセラとか行ってみない?」
パセラ、それはなんとも魅惑的な響き。東京に住んでいた頃、パセラの店先を通るたびに僕はいつも目を奪われていた。甘党なら誰でも一度は食べてみたい甘い塔。縦置きされた一斤ほどのハニートースト、その上には生クリーム、アイス、フルーツがたっぷり。ついに、あのパセラのハニートーストを食べる日が来たようだ。
「いいね、パセラ。ハニートースト食べたい」
ということで、友人と会うのはパセラに決まった。
予約していた402号室。中に入って、まずは怪獣向けにフライドポテトと唐揚げの盛り合わせを頼む。次に僕のハニートースト。本当はハニトーと言うらしい。色んな種類があったが、つむぎが好きないちごが乗っていそうな赤のハニトーを選択。
そして、ついに目の前に。
なかなかの迫力。どうやって食べたらいいのか。そびえる塔を目の前に攻略法を探す。よく見ると上部が9つのブロックに分けられている。それに沿って切り離し、幸枝さんと友人に1ブロックずつおすそ分け。残りの7ブロックは注文した僕のノルマだ。
1ブロック目、すごく美味しい。上に乗ったクリームやフルーツはもちろん、トースト部分もかなりイケる。これは、簡単に食べ切れるかもしれない。つむぎの大好きなパワーショベルのごとく、塔を解体していく。2ブロック、3ブロック、4ブロック、5ブロック。ここで、パタッと手が止まる。
「もう生クリームは食べたくないかな・・・」
もう37の僕にはこの量の甘味はなかなかの破壊力だ。しばらく、ハニトーは見ないようにして会話に加わる。韓国ドラマ、K-POP、ジョジョ、話が合う。
しばらくして、また向き合う。あと、2ブロック。「エイヤ」と口に入れる。ついにハニトーの解体工事に成功。
憧れていたパセラのハニトー。それを食べれた満足感と、大量の甘さの渦による気持ち悪さを胸に「うん、もう一生分食べたな」と思うのでした。