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「どうして仲がいいの?」と聞かれても

以前noteに、「自分と違うタイプの人こそ、話してみると面白い」と書いた。

するとnoteで出会った友人・下瀬ミチル嬢(以下るんみち)がこんなツイートをしていた。

へぇ、そんなこと聞かれるんだ。なにが疑問なんだろう?

るんみちと(ネット上で)出会ったときのことは覚えていない。気づけば、タメ口のリプライを交わすようになっていた。実際に会ったのは昨年の夏で、それ以来、たまに遊んだりオンライン飲みをしたりしている。

「どうして仲がいいのか」と問われれば……どうしてだろう?

思慮深いとか誠実であるとか、彼女のいいところはいくつも挙げられる。けれど、それが理由で仲良くしているわけではない。タイミングとか相性とか、私には計り知れないいろんなさじ加減によって、気づけば仲良くなっていた。

そんなるんみちと火鍋を食べに行ったら楽しかったので、その日のことを書こうと思う。これを読めばきっと、私が彼女を好きな理由が分かるはず。

その日、私とるんみちは昼から会っていて、夕方からまるいがんもさんが合流した。私が「火鍋を食べてみたい」と言うと、まるいさんが「じゃあ今から行こうよ」と言う。いいねいいね。お店を検索し、3人で向かった。

受付の男性が席に案内してくれる。入口付近にはたくさんの調味料やフルーツがバイキングのように並んでいた。

「このテーブルを担当する○○さんです」と、中国人らしきお嬢さんを紹介された。仮にリンさんとしよう。大学生くらいだろうか、ほわっとした笑顔が可愛らしい人だ。

テーブルにはメニューが置かれていない。リンさんがタブレットを取り出し、システムを教えてくれた。

私とまるいさんがタブレットを覗き込んでオーダーを決めている間、るんみちはずっと「ねぇねぇ、あのフルーツって食べていいの?」と言っていた。あまりにフルーツフルーツ言うので、しまいにはリンさんが両手でるんみちを制し、「フルーツまだです」と言った。ペースを乱すんじゃないよ。

スープを2種類選び、具材はセットを人数分、それにドリンクバーをつける。

オーダーが終わると、リンさんがるんみちに向き直って、「フルーツもう食べていいです」と言った。

すごいフルーツ食べたい人だと思われてるじゃん。


鍋と具材が運ばれてくる。

火鍋は真ん中に仕切りのある鍋を使い、2種類のスープで楽しむ。真っ赤な麻辣スープと、白いパイタンスープを選んだ。

具材は、大皿に盛られたたっぷりの野菜と白身魚、肉。3人前ならちょうどいい量だ。

バイキングのような調味料コーナーへ行くと、金属の器に入ったさまざまな調味料が並んでいた。ラー油やごま油、パクチーや豆豉など。それらと並んで、カットされたメロンやオレンジが置かれている。るんみちはさっそくメロンをたくさん取ってきた。

赤い麻辣スープのほうは、花椒がたくさん入っていて辛い。

一口食べて、るんみちと「辛い辛い!」と言い合った。まるいさんは「美味しい」と言いながら平然と食べている。リンさんが笑いながら「辛いですか?」と言った。

「フルーツって口直しのためにあるんだね」

辛い鍋と甘いフルーツを交互に食べるのだ。きっと。辛いけど美味しい。

リンさんは手が空いて暇なのか、私たちが席を立とうとするたび、「フルーツですか? 私、取ってきます!」と取ってきてくれた。ドリンクバーまで持ってきてくれる。

気づけば、私たち(特にるんみち)とリンさんの間に交流が生まれていた。

私のグラスが空いたとき、リンさんに「なにがいいですか?」と聞かれたので、「ホワイトウォーターで」と答えた。カルピスのような飲み物だが、その店のドリンクバーの機械に「ホワイトウォーター」と書いてあったからその表記に従ったのだ。

リンさんは小首を傾げ「……あぁ、カルピス!」と言った。

るんみちはくすくす笑い、リンさんに聞こえないよう小声で「せっかく機械に書いてあるとおりに言ったのにね」と言った。

やがて、るんみちがスープに興味を示した。調味料バイキングにスープがあったのだ。

「あれってスープだけで食べるのかな? それとも、つけだれみたいにして食べるの?」

私もまるいさんもわからない。るんみちはリンさんをつかまえて、「あそこにスープってあるでしょう。あれ、どうやって食べるものなの?」と聞いた。

リンさんは「少し待ってください」と言い、ほかのスタッフに聞きにいった。戻ってきた彼女は笑顔で言う。

「緑豆のスープです。美味しいですよ。食べたいですか?」

いや、材料や味じゃなく、用途を聞いたんだけどな。

……とは誰も言わない。おそらく気を遣ったであろうるんみちが「うん!」と言ったら、リンさんがスープを持ってきてくれた。

れんげを口に運んだるんみちは、一瞬固まったかと思うと、崩れるように笑い出した。

「……想像してたのと違う」

気になるじゃん。

しかし、例の疫病のため「一口ちょうだい」と言うわけにもいかない。リンさんはすかさず「持ってきます!」と、私とまるいさんのぶんを持ってきた。

おそるおそる飲んでみる。これは……たしかに想像と違う!

まず、熱いかと思いきや冷たいスープだった。味は、ほのかに甘い。お赤飯の煮汁のような。

「美味しいけど、なんか想像と違いすぎて脳がバグるね」

まるいさんがみょうに慈悲深い表情でスープをすすっていて、私たちはますます爆笑した。


我々の食事が佳境にさしかかった頃、別のテーブルの前で、店員さんがなにやらパフォーマンスを始めた。踊りながら生地のようなものを伸ばしている。

「なんだろうね?」

るんみちは興味津々。

「麺じゃない?」

「えっ、このご時世に食品?」

「あそこで食品以外のもの伸ばしてたら、そっちのほうが意味わかんないじゃん」

「リンさんに聞いてみようかな」

「また持ってこられるよ」

私はトイレに立つ。洗面所のアメニティが充実していた。マウスウォッシュや櫛まである。なぜか使いかけの洗顔フォームが置かれていた。

席に戻るとまるいさんがいない。るんみちがひとりで、お腹を抱えて笑っていた。

「あ、吉玉さん、さっきのやつ聞いてみたんだけどさ、『カンフー麺』だって。しかもね、あんなにやってくれて380円なの」

麺の名称と安さがツボだったらしい。

すぐにまるいさんが戻ってきて、「トイレのアメニティすごい充実してる」と言った。なんか演劇みたいだな。

すっかり食べ終わったのに、セットに含まれている杏仁豆腐が出てこない。

るんみちがリンさんに「杏仁豆腐は?」と言うと、彼女はニヤっと笑って

「食べたい?」

と言った。急なタメ口だ。

「すっかり打ち解けてるじゃん」

リンさんの姿が見えなくなったあと、るんみちに言う。

「うん。コミュ障なんだけどさ、たまにこういう出会いがあるんだよね。それが楽しい」

なんだかんだ言って、君は人が好きなんじゃない?

るんみちは人間関係に注意深い。

私はすっかり「友達」だと思っているが、彼女は私について言及するとき、その言葉を避けるかもしれない。

それはそれで、別にいいや。

また次も笑顔で会えたらそれでいいんだ。

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吉玉サキ
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